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▼ 20

ユーリさんに付き添われて家に帰り簡単な荷造りをした。
ユーリさんは棚の上のフィギュアを見ていた。小さい時から集めているヒーローグッズともしばしお別れだ。
数日分の着替えを持ち、ホテルへと向かう。

アニエスさんにしばらく休む旨を伝えれば呆れられてしまったが、やばい時は行きますと伝えればしぶしぶ納得してくれた。

風声鶴唳、今の私は現場に出ても冷静に対処できる自信はない。

「昼間一人になりますが大丈夫ですか?」

「うん」

「今日は遅くなりますが、一度会いに来ますね。今後は仕事が終わり次第様子を見に来ます。何かあればいつでも連絡してください」

「うん。待ってる……」

「そうそう、ヒーローがウロボロスのパワードスーツの格納されている倉庫に今夜踏み込むそうです」

「え?」

「バーナビー・ブルックスJr.が捜査権限もないのに見つけてきまして。
ヒーローTVのプロデューサー直々に申請がありました」

「そんな……」

思わず口を覆う。危険すぎる。

「2分遅れで中継されますよ。番組欄はそのままですが作戦開始2分後に差し替えられます」



バーナビー・ブルックスJr.
なんて無謀な男なのだろう。



「心配ですか?」

「え……うん」

「彼らはヒーローです。信じましょう」


ユーリさんをホテルから見送り、PDAを操作してスカイハイを呼び出す。

『やあリツ!今日は驚いたよ。体調はもういいのかい?』


いつもの爽やかな笑顔。

「ええ、なんとか。あの、スカイハイ……今夜の作戦聞きました」

『そうか。一気に犯人を捕まえるチャンスだからね。みんな気合が入っているよ』

「どうかお気をつけて。私はいけませんから……」

『ああ、アニエスくんから聞いたよ。大事をとってしばらく休暇なんだってね。君からコールが来るまでかなり悪いのかと心配したよ。
いつまでなんだい?』

「いつまでかはちょっとわかりません」

わからない。すっかり私は怖気づいてしまった。

ユーリのお父さんから、自分の身を守れるようにと色々なことを教えて貰った。
どうして私がウロボロスに狙われるのか。
ウロボロスに見つかっては、捕まってはいけない理由。

実際に体験したわけではないのにおじさんの口から語られたそれらが私の心臓をぎゅっと鷲掴みにして思考を乱し冷静でいられなくするのだ。

『休暇中、予定が合えばどこか行かないか?』

「え?」

『仕事では会えないから、たまにリツに会いたいのだけれど、だめだろうか?』


どきりと心臓が跳ね上がる。

「あ、えっと、多分大丈夫」

『そうか!良かった。ではまた連絡するよ。そろそろ会議があるからね』

「はい、ではまた」

いつもの彼の笑顔をみて少し体が暖かくなった気がした。














夜、ヒーローTVの中継を見ようとテレビをつける。

今頃彼らはヒーロースーツに身を包み現場に向かっているのだろう。

画面にはくだらないドキュメンタリーが写っていた。

「どうか無事で」

手を組みシュテルンビルトの女神に祈る。

無意味に繰り返される感動と笑いが続いた後画面が切り替わった。
緊急を知らせる効果音とテロップが流れている。

「え?」

倉庫は火に包まれていた。

「うそ……」

どうして。

ヒーローの視点のカメラにはパワードスーツは一体も映っておらず燃え盛る炎と、逃げ惑う男たちが映し出されていた。

やっぱりウロボロスに手を出してはいけなかったんだ。
情報が漏れている。内部にウロボロスの者がいるのかもしれない。

「!」

倉庫が崩れる!

まだワイルドタイガーが中にいるのに。


「……良かった」

他のヒーローの連携により生き埋めはまぬがれた。
しかし

「青い炎のネクスト……」


『私の名はルナティック
私は私の正義で動く
タナトスの声を聞け!!』

青い火のついたボウガンを放つ。

ボウガンの先には捕らえられた犯罪者たちがいた。

軌道上にワイルドタイガーが立ちふさがりボウガンを受ける。

「タイガーさん!」

思わず立ち上がるがこれは2分前の出来事だ。

ルナティックと名乗ったネクストは飛んで行ってしまった。
中継は終了。


「!」

腕のPDAが鳴る。
バーナビー・ブルックスJr.からだ。

「はい」

『リツさん』

「中継見ました。お怪我はありませんか?」


『ええ、大丈夫です。今日の件について少し話したいのですが……直接お話ししたいんです』

「あ、私は休暇中なのでバーナビーさんの都合の良い時で大丈夫ですよ」

『今から会えませんか?』

彼はまだアンダー姿のままだ。一体何の用だろう。

「今から、ですか? バーナビーさんお疲れでは……」

『なるべく早くお伝えしたくて。夜に女性を呼び出すのは失礼かと思いますが……』

声もなく彼の唇が動いた。

「!」

そういうことか。

「わかりました。シルバーのホテルにいるんですが来てもらえますか?場所は……」


ウロボロス


彼の唇はそう動いていた。

関わりたくない。けれどこのまま逃げているだけでは危険だ。

パワードスーツの倉庫はもぬけの殻。確実にどこからか情報が漏れている。

口パクとはいえ彼も危ないことをしてくれる。
PDAの記録を見られたら……考えただけで恐ろしい。

とっくに収まっていたのに手が小刻みに震える。

ーー深呼吸。

大丈夫。
きっと、大丈夫。






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