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▼ 17

気持ちを落ち着かせようとジャスティスタワー内のカフェに入れば、終業時間前のこの微妙な時間、お客の数は少なかった。

甘いケーキと紅茶を注文した。
紅茶に更にハチミツを垂らしてくるくるとかき混ぜれば明るい茶から黒っぽい色に変化する。


スカイハイが私に優しくしてくれているわけじゃない。
スカイハイはみんなに優しいヒーローなのだ。

勝手に想うくらいは許して欲しい。



「ここ、よろしいですか」

「!」

頭上から降ってきた声に顔を上げれば、ユーリ・ペトロフ管理官がいた。

「どうぞ」

トレイを引き寄せ彼のスペースを作る。

「お久しぶりですね、リツ」

「珍しいね、ユーリさんがカフェに来るなんて」

相変わらず顔色の悪い人だ。
目の下の隈や長めの髪が落とす影が余計に具合いの悪そうな雰囲気を増長させている。

「ヒーローTVの特番見ましたよ」

「ああ、バーナビーさんの。ちょこっとだけ出たの」

「あれを見たら貴女に会いたくなりまして」

「……また私用でPDAの位置情報見たんだ……」

「普段は見ませんよ。保護者の特権です」

「そんな特権ありませんっ」

保護者。
以前は私の保護者は彼のお父さんということになっていた。
おじさんが亡くなった後、後見はおばさんになっていたが、病んでしまって数年前からユーリさんが事実上の後見人となっている。

私の両親は、いない。

「また一段と顔色悪いね。疲れてる?今夜アレしよっか?」

彼の仕事は激務なのだろうか。司法局の仕事はよくわからない。

「いえ、大丈夫ですよ。温存しておいてください」

「……はい。でも対外的には日付が変わる深夜零時を基点に24時間でリセット、一日三回の使用可能ということになってるんだし、
余らせるのももったいないというか……」

「貴女の能力に枷をつけたのは私ですが、貴女の安全のためです。余らせると云う表現はどうかと思いますよ」


彼の紅茶も黒い。そういえば真似をするようになったのはいつからだっけ。

「もしあなたがあの組織に……」

「大丈夫、私のネクスト能力は修繕。それしか公には発表してないし、あの人たちは私が赤ちゃんの時しか知らないんだもん。
お父さんと同じネクスト能力ってことも知らない。見つかったりしないよ」

「ですが」

「ユーリさんは心配性だね」

くまの目立つ目が眇められた。

「私はヒーローじゃないけど、せっかくの能力なんだから役に立ちたいの」


チーズケーキを一口。
やっぱりここのカフェはベイクドチーズケーキが一番美味しい。

ふと彼が腕時計を見た。

「そろそろ戻ります」

紅茶を飲み干し席を立った。
「はい。またね、おばさんによろしく」

彼を見送ってケーキの残りをフォークで大きめに切り頬張る。


父と母は私が4歳の時に死んだのだ。

今は苗字も違う。おじさんたちがあの組織に辿られないように守ってくれたのだ。

そのおじさんも今はもういない。
以前の優しくて暖かいおばさんも、もういない。



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