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▼ 明けまして

「おきて虎徹!もう行かなきゃ!」

「あと10分」

「それはさっきも聞いた!10分どころか15分経ってるー!」

私だって早起きは苦手。年明けだしゆっくりしていたいのもやまやまだけれど、そうもいかない事情がある。

「初売り並ぶって前から言ってるじゃーん……もー」

年末の忙しい時期に洗濯機にエアコン、冷蔵庫が壊れた。
三種の神器が壊れてしまっては文化的な生活が送れない。

送れなくなった今、彼の家に居候している。
今日、初売りで安くゲットしなければ今後の私の生活と預金に支障が出る。

「先行くからね!」

毛布の中で未だまどろむ彼を置いていこうとベッドから腰を上げると、伸びてきた腕にバランスを崩し固めのスプリングを感じながら尻餅をつく。

「なにやっと起きる気になっ……」

「いーじゃねーか、寝ようぜ」

毛布をバサりとかぶせられ押し倒された。

「良くない。これじゃ私家に戻れないもの」

「戻んなよ。ウチにいればいーじゃねーか」

ぎゅう、と両腕で圧迫される。抱きしめられて放たれた言葉の意味を理解すると意識に反して頬に熱が集まるのを感じた。


「ええ……まだ寝ぼけてるの、鏑木虎徹」

「鏑木リツに、なりませんか」


鏑木リツに、なりませんか。


「えっ」

「んだよ……」

「それ本気?」

「ジョーダンでいうヤツだと思うか?」


彼の暗い茶色の目が細められた。

「返事は?」

「とりあえず初売り行ってからね」

「ハァ!?」

「初売りで……いいのなかったら一緒に住んであげる」



私はそっと彼の腕から抜ける。

乱れた髪を手ぐしで直し、彼にタオルを渡す。

「ほら、初売り行くから準備して」


多分、今日は私のお眼鏡にかなう家電には出会えそうにない。







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