▼ 明けまして
「わ、ねえ見てアントニオ、雪降ってきた!」
なんとはなしに暇を持て余してカーテンの合わせ目から外を見たら結露の向こうに雪がちらついていた。
「寒いはずだよねー。」
ヒーターをつけてコタツも最強設定。
冷え性の私は気を抜くとあれよあれよと先端から冷えてゆく。
家の中でダラダラしていて、しもやけができたときはものすごくむなしくなった。
「リツ、始まるぞ」
「はーい」
アントニオの声に窓辺から離れてテレビの前のこたつへと戻る。
アントニオの隣。
ちょっと詰めてくれとぐい、と彼の巨体をおして座る。
「なんだ」
「隣に座りたいのー寒いから」
「こたつに入れば暖かいだろう」
「心が寒いー」
さっと彼は立ち上がる。いーじゃないかケチ。アントニオの温もりは減るもんでもなし。
文句を言おうとしたその時、後ろから包み込まれた。
よっこらせと腰を下ろした彼の足は私の両脇からにょっきりとでている。
「これなら寒くないだろ」
「……うん」
これならどっちも寒くない。
聞きなれたオープニングにHERO TVのタイトル。
「今年もお疲れ様」
「リツもな」
一年のダイジェストが流れる。
画面の向こうのアントニオ。西海岸の猛牛戦車。
ツノで車を突き刺したり、大の男を片手でひょいと軽く持ち上げたり、ネクスト能力をあまり活かしきれていないヒーロー。
「アントニオ」
「なんだ」
「わたしね、最近までアントニオは怪力のネクストなんだと思ってた」
「はあ?」
だって目の前で発動したことないし、テレビの中のアントニオはパワー系ヒーローって印象なんだもん。
「最近ヒーローカードみて気づいた」
「……お前な」
「あ、バーナビー・ブルックスJr.だ人気あるよねーこの人」
背中が暖かい。
画面ではキザなポーズを決めるバーナビー・ブルックスJr.
気まぐれにネクスト能力を発動する。
彼の真似をして人差し指と中指を揃えて振ってみる。
「ハァーイ!明けましておめでとうございます!間接照明にこだわる方バーナビーです!」
「ぶっ」
「どう?そっくりでしょ?」
アントニオを振り返りドヤ顔をしてみる。
「リツ! ネクストだったのか!?」
驚いてる驚いてる。目を剥くアントニオってばかわいー。
「クリスマスかな?多分そのあたりでネクストになったみたい。声のモノマネしかできないけどね」
自由自在に発動できるよう密かに練習していた。
「びっくりした?」
「モウ……驚かせるな」
グリグリと頭をなでているのか押さえつけられているのかわからない強さでグシャグシャと混ぜられる。
「たまにまだうまくコントロール出来なくて声変わっちゃうんだけどね」
だから。
アントニオの耳元でこそこそと小さな声で言う。
「エッチの時にバーナビーの声になったらゴメンね」
はたかれました。
オマケ
「なんでバーナビーなんだ?」
「友達がね、バーナビー・ブルックスJr.のファンでね、練習させられた」
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