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▼ 13

「大丈夫ですかスカイハイ」

柱を元に戻しスカイハイの元へと駆け寄る。

「あ、ああ大丈夫だ。情けないところを見せてしまったね」

檻の中のスカイハイは動物園に展示されている動物のようだ。
キングオブヒーローを間近で見ようとたくさんの人が集まっていた。

追い払ってもいいのだが、彼の外聞的にファンを雑に扱うのも躊躇われる。

「犯人は位置を入れ替えるネクスト……でしょうか」

「そうかもしれない。リツ、これどうにか出来るかい?」

これ、とスカイハイは檻をコンコンと叩いた。

「わたしの能力じゃちょっと……パワー系のヒーローを呼ばないと」


私の修繕のネクストでは彼のことを助けることは出来ない。
応用次第で出来なくもないが、それは私の信条に反する。
中継されている今他人にこのネクストの本質がバレるのはまずい。

PDAでロックバイソンに助けを求めた。トラックをツノに刺して持ち上げた彼なら檻をひっくり返すくらい簡単だろう。

すぐに来てくれると返事をくれたので安心だ。

「そういえば、さっき「うぐうっ」て聞こえたんですけど、どうしたんですか?」

ピタリ、と彼の動きが止まった。

かと思うとブンブンと手を振り、

「な、なんでもない!なんでもないとも!気にしないでくれ、そして気にしない方が嬉しい!」


「ーーそう?」

なんでもないなら良いのだが。

「落下しかけているようでしたので怪我でもしたのかと」

「大丈夫だよ、リツ」

ヒーローではなく、キース・グッドマンの声になった。
その優しい声に私は思わず頬が緩んでしまう。

ガッチャガッチャとロックバイソンのヒーロースーツの音が聞こえてきた。

彼が来ればスカイハイが出られる。

私は背伸びをしてロックバイソンの姿を探した。












『リツ、タイガーがアトラクションのサメを破壊したわ』


「サメ?やばそうですか?」

周りをぐるりと見渡す。近くにサメは見当たらない。

『まあ、そこまで危険はなさそうね。まだ直す必要は無いわ。でも一応把握しておいて』

了解、と通信を切る。

あっさりと解決するかと思われたこの事件。海外で名を馳せただけあり捕獲は難しいようだ。



『みんな!バーナビーからお知らせよ。特別に回線を開くわ』

続けてまた通信が入る。

『バーナビーです。犯人の能力を特定しました』










ヒーローの健闘虚しくロビン・バクスターは捕まることなく、いよいよ本気で逃げ切ろうとしているようだった。

ジェットコースターの最上部からは街を一望できる展望台に抜けられるらしい。

そこまで逃げてしまえば街中の誰とでも入れ替わることが出来、もはや捕獲は不可能となる。

最上部スカイゾーンに行くまでに捕まえなければ。

だが、犯人確保は私の仕事ではない。
私はヒーローとして司法局の認可を受けていない。

助けるつもりが妨害行為として裁判にかけられるのは御免である。

「いっそこの建物ごと壊しちまうか」

ロックバイソンの言葉に私に視線が集まる。

「む、無理ですよ……こんな複雑なもの直せません」

私の能力はそこまで簡単な便利機能では無い。

「……賠償金を考えると恐ろしいでござる」

「ホント憎たらしい犯人ね!!」

ファイアーエンブレムが憎々しげに爪を噛む。

『今ロビン・バクスターがグリーンゾーンを抜けてミラーゾーンに入ったわ』

どうしたらよいのだろう。

アポロンメディア組はこんな時まで喧嘩している。


ちらりとスカイハイを見るが彼からは何も無い。


「そうか!」

バーナビー・ブルックスJr.は何か思いついたようだ。
なんだどうしたと相棒が尋ねるが、
着いてくるなとはねのけた。

見つめあった二人はややあってから納得したように別れた。

「おい、新人に勝手なことさせていいのか?」

新人に好き勝手させまいと皆バーナビー・ブルックスJr.のあとを追おうとぞろぞろと内部へとはいろうとする。

「待ってくれ!」

ワイルドタイガーの声に振り向く。

「俺……アイツの人生の3分を、無駄にしちゃったからさ」

自分の勘が根拠だとか、責任は自分が取るだとか、なんとかみんなを引き止めようとあたふたしていた。


「だから!任せてやってくれ!」











結果を言えばバーナビー・ブルックスJr.は見事ロビン・バクスターを捕獲した。

スーツを囮にした彼の作戦勝ちだった。


「お疲れ様です」

「やあリツ!怪我などはないかい?」

「私は何も」


ワイルドタイガーのサメを直し、能力は残り1回。

ワイルドタイガーのバイクを直していなくてよかった。

「腕、怪我してますよね?」

ヒーローTVのハイライトが大型モニターに映し出され、「うぐぅ」の正体がわかった。

「右肩から腕にかけて痛むんでしょう?」

何事もなかったかのように振舞っていたが、その後の映像を見る限り腕の角度が少し低い。

ヒーロースーツを着こみ、ヘルメットをかぶってしまえば多少の異常はわからない。

「なに、これくらい平気さ」

サッと腕をあげてみせるが、一定の角度で痛みを感じたのかピタリと止まってしまった。

「……」

ポセイドンラインのトランスポーターに一緒に乗り込み、ヒーロースーツを脱がせて治療する。

筋肉のついた彼の腕をゆっくりとなでるようにさすり青い光で包んでゆく。

「暖かいね。気持ちいいよ、リツ」

肘、二の腕、肩。

念のため首筋から脇腹にかけても手を当てる。

スカイハイは目を閉じて私の能力を感じている。

「これで大丈夫。痛みはなくても念のため今夜はあまりこちら側を使わないでくださいね」

「わかったよ。ありがとう!そしてありがとうリツ!」

手を離したとたんがばりと両腕で抱きしめられた。

半分アンダーを脱いでいるので上半身は裸なのに。

「ちょっ、スカイハイ!」

「いつもありがとう」

耳元で彼の声がする。そのままちゅっと軽いリップ音を立てこめかみにキスをされた。


頬に熱が集まる。絶対に今顔赤い。
離して欲しいと思っていたのに実際スカイハイの体が離れてしまえば、急にさみしくなった。

「少し待っていてくれるかい?もう夜も遅い。送るよ」

頭を撫で、キースは着替えるべくカーテンの向こうに消えた。


「あ……わたしバイクなんだけどな……」









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