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▼ 11

「リツ、家はどのあたりだい?」

腕の中の毛布の塊に問いかける。
思えば彼女の家がどこにあるのか、

ブロンズステージにあるということしか知らない。

「ブロンズ……イースト」

「イーストのどのあたりだい?」

「あっち」

あっち、ではわからない。
夢うつつの彼女をぎゅっと抱え、とりあえずイーストを目指す。


「リツ、君の家はどのあたりだい?……リツ?」

返事がない。

顔のあたりの毛布をどけてみれば目は閉じられ口は半開き。規則正しい深い呼吸に胸が上下している。


「なんということだ……」







結局揺すっても起きないし、ヒーロースーツのまま家に帰るわけにもいかず、事情を話してポセイドンラインの仮眠室を借りた。
狭いベッドに彼女をおろし、布団をかけてやる。

見事にぐっすりと夢の中だ。



ーーヒミツですよ?


ーー疲労回復、です。




彼女のいたずらっぽく笑う姿がふと思い浮かんだ。

今の私に彼女のようなネクスト能力が使えたのなら彼女の疲労を癒してあげられるのに。


顔にかかった髪の毛を払ってやる。

ぴくりと眉が動いたが起きることなくリツは眠っている。

誘惑にかられ手袋をはめたまま彼女の頬をなでた。

手袋越しに彼女の頬の柔らかさが伝わってくる。

直接触れたい。

直接彼女のやわらかさを、熱を感じたい。


ふっくりとした頬と赤みの戻った唇。

凝視してしまっている事実に苦笑した。


「お休み、リツ」











目を開ける。なれない香りに包まれている。

「……?」

知らない部屋、知らないベッド。

ここは、どこだろう。



寝入る前の記憶を覚醒しきっていない脳みそからたぐり寄せる。


スケートリンクビルの解体の補助をして、ブルーローズ……カリーナからドーナツを貰って、ワゴン車で休憩、というか寝てしまって。

そうか、その後スカイハイが来てくれたんだ。

彼は私の家を知らない。寝てしまってどこに帰るべきかわからずここに連れてこられたのか。

PDAに時刻を表示させるとまだ朝の4時だ。帰らなければ。
ホコリっぽい所にいたしシャワーも浴びたい。


ここはジャスティスタワーのどこかの部屋だろうか?

ゆっくり起き上がりドアを開けると、そこにはスーツを脱いだスカイハイがいた。

「やあおはようリツ。もう起きて大丈夫なのかい?」







スカイハイに促されるまままたベッドに戻り座る。

お腹はすいていないか、寒くないか、喉は乾かないか、体は辛くないか。

気遣わしげに質問攻めにされ、とりあえず飲み物だけもらった。


「ここはポセイドンラインの仮眠室だよ」

「ごめんなさい、私が寝てしまったから……」

「気にしないでくれ!ずっと能力発動したままで疲れていたのだろう?私でも1日ずっと発動したままなんて無理だからね」

こんなことにヒーローの手を煩わせてしまうなんて。

私はヒーローの活躍のその後を処理する人間だ。
法務局の認可があって現場に出入りするが私はヒーローではないし、
ジャスティスタワーのトレーニングセンターを使う許可をもらっていても、彼らはヒーロー、私はただの修繕係。

ヒーローが私を気にかけてくれるのは嬉しいが反面申し訳なく思う。

「スカイハイ、私そろそろ帰ります」

「ダメだ」

え?

「あいや、ダメというかその、まだ体が辛いだろう?ここは昼まで使ったって誰も文句言わないよ。もう少し休んだらどうだい?」

私はベッドに寝そべることなく立ち上がる。


「大丈夫ですよ、スカイハイ」


現場に戻れば解体作業が続いていた。

お疲れ様です、と挨拶をしてバイクを探す。


うっすらと砂埃が積もったシートを手で払いまたがる。

帰ったらシャワーを浴びよう。その後少し寝れるかな。

下層の自宅を目指して私はバイクを走らせた。






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