▼ 人質スイート
『犯人の要求がわかったわ。狙いはやっぱりリツ・ニノミヤ身代金目的よ。犯人もネクストの可能性があるわ。前科は不明』
ヒーロースーツに着替えながらアニエスさんの言葉を聞く。
リツさんの身代金目的だなんて。
身代金目的であればリツさんの命は安全なはずだ。
ひどい焦燥感に駆られる。
どうか無事で。
そう願って僕はトランスポーターを飛び出した。
「……ど、どうしたら」
ハッチの閉じられた飛行機にはありの子一匹入り込める隙間はない。
「おう!俺がぶっ壊す!」
「ダメです虎徹さん、ジャンボジェットいくらすると思ってるんですか」
「やめとけ虎徹。25億から30億シュテルンドルはするぞ」
「だっ!?まじかよ……」
ロックバイソンの言葉にワイルドタイガーは肩を落とした。
「YENにして約300億……」
犯人と人質の乗った飛行機を整備車輌に隠れて様子を伺う。
『ボンジュール・ヒーロー』
PDAからまたしてもアニエスさんからの連絡が来た。
『犯人の要求はリツ・ニノミヤの身代金5億シュテルンドル、受け取った後は……飛行機で逃げる気なのかもしれないし、ネクスト能力で逃げるのかもしれない。リツ・ニノミヤのおじいさんから1時間以内に返答がなければ一人ずつ人質を殺すそうよ。それとこれを見て』
映像が切り替わった。
音声はないが飛行機の中のように見える。
『うちの社員が乗っていてね、映像が届いたわ』
リツさんの頭には銃が突きつけられていた。今のところ怪我などはしていないように見えるが、どうだろう。視線のみで周囲を気にしているようだった。
犯人は、顔を隠す事もせず堂々としている。
「!」
リツさんの口が動いている。犯人と何かを話しているようだ。
「……ほかのひとは、かんけいない、ちいさい……お?ちいさいこは解放して……?」
「ん?バニーわかるのか?」
「読唇術ならアカデミーで習いましたから」
ーー本当に彼は優秀だ。
荒い画像からここまで読み取るなんて。せめて自分も映像ではなく直接見ていたなら。
そこまで考えて頭を振った。今はそんなことを考えている場合じゃない。
「ひとじちは、わたしだけでじゅうぶん……立派ですね彼女は。取り乱しもせず冷静ですね」
確かに。一般人が銃を突きつけられてまず他人の助命を乞うとは。
「よほど強い精神の持ち主なのか、それともなにかあるのか……」
「え?」
バーナビー・ブルックスJr.は目を細めて
「たとえば、彼女がネクストで人質さえいなければ命の心配はない……とか」
彼女がネクスト?
「折紙、なんか聞いてるか?」
「いえ、なにも……」
僕は、彼女のことを何も知らない。
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