のべる | ナノ


▼ グサリと刺され手裏剣クッキー

広報活動を終え会社に戻ると受付の女性に呼び止められた。

何事かと思えば小さな紙袋を手渡された。

「ミスターカレリン、リツ・ニノミヤさんからですよ。お知り合いですか?」

リツさん!
知り合いです、と答え受け取る。

エレベータに乗り込み中を確認すれば、そこには小さな袋と手紙が入っていた。

「手裏剣のクッキーだ……」

手紙をひらけば初めて見るリツさんの字が並んでいた。

「……ココア味です。
知っているかもしれませんが、引っ越すことになりました……」

知っているかもしれませんが引っ越すことになりました。
短いあいだでしたが、イワン君と過ごせてとても楽しかったです。
今までありがとう。


「え?これだけ……?」

これだけ

口にしてみて自覚した。何が書いてあると期待したんだろう。


自分から関係を断っておいてずいぶんと都合の良い考えだ。

「リツさん……」

会いたい。









女々しい自分を振り切りたくてトレーニングセンターではひたすら走り込んだ。
何も考えたくない。こういう想いは時が経てば薄れていくものだと思っていた。

三ヶ月、会ってもいないし連絡もしていない。

「折紙サイクロン、ちょっといいかしらぁ?」


ぬっと伸びてきた手に、トレーニングは中断された。




誘われるがままについて行くと、そこにはタイガーさんもいた。

「よう折紙!」

「あ、お疲れ様です」

「最近どうだ、リツチャンと」

「今夜発つんでしょう?お見送りはいいの?」

今夜。
ファイヤーさんの言葉に思わず固まる。

「あらやだ、知らなかったの?」

「知りませんでした……」

今夜行ってしまう。ちらりとPDAの時刻表示を見れば19時半を指していた。

「何時の飛行機かは知らないけれど……ほんとにこれでいいの?」

いいわけがない。でもリツさんに釣り合うのはきっと他のすごい人であって僕ではない。

「いいんですよ……彼女は、僕のことなんか……」

「いいわけないだろそんな未練たらたらで。なあ折り紙、今すぐ電話しろ。飛行機ン中でつながんねーならメールしろ」

「そうよ!どうせ当たっても砕けてもいないんでしょう?うじうじするなら砕けてすっきりさっぱりなさい!」

「く、砕け……」

ひどい、と口にしようとしたところでPDAからけたたましい音が鳴り響いた。

『ボンジュール・ヒーロー』

出動要請だ。未練まみれの僕は、これでリツさんのところに行かなくて済む。きっとリツに会えても会えなくても辛い思いをするのだろうから。


『空港で出発前の飛行機がジャックされたわ。人質の中にコンチネンタルの富豪のお孫さん……リツ・ニノミヤがいるわ。メディアによく出ていたから知ってるわね。何がなんでも人質は無傷で助けなさい!』



prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -