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外に出たとたん悲鳴が聞こえた。

ぎい、と金属が軋む音がする。

「スケートリンクが!!おちる!!」

ドーム状のリンクがぐらりと傾ぐ。

ロックバイソンが支えるが、足が滑り傾きは止まらない。

ブルーローズが氷で固定しようとするが重さで氷が砕けてしまった。

「俺に任せろ」

跳ぼうとしたバーナビーを引き止めワイルドタイガーがロックバイソンの元へ跳んだ。

ハンドレットパワーの彼がいれば大丈夫だろう。

私は踵を返しスケートリンクビルの全体がカメラにおさまる位置まで離れようとしたその時。


「やばい、時間切れだ」

耳を疑うセリフが聞こえた。


「はあ!?」

私は急いでチョークで描いた円まで走る。

スケートリンクビルの設計なんて覚えていない。
この仕事に就いてから一度目を通したきりだ。

これの後始末が一段落したらシュテルンビルトじゅうの設計図や施工図を見せてもらおう。

「おーい!トニー!たのむ!助けてくれ!」

「!」

「このままじゃスケートリンクが落ちて大惨事だ!たのむ!」

「君ならできる!」


チョークのラインまでたどり着いた。両手をつけて必死で設計図を思い出す。

材質は

どう固定してある?



中心に使われているスティールを変形させて張り巡らせ……スティールの量が足りないかもしれない。

ズキズキと頭が痛む。どうしたらいい……?

ふと、影がさした。

轟音を立ててスティールハンマー像がスケートリンクに手を伸ばした。

「!」

スティールハンマー像はスケートリンクを持ち上げ、落下の危機は免れた。


「トニー! これで君もヒーローの一員だな!」



私はそっとチョークのラインから手を離した。








「お疲れ様!リツ、まだかかるのかい?」

すっかり日が暮れた。

重機が搬入され、煌々と業務用のライトが照らす中ガレキの撤去が行われている。
スケートリンクは一旦解体、再建されるらしい。

「ええ。さっき施工のデータが届きましたから。むしろここからが正念場です。2、3日徹夜ですねえ」

リツはタブレット端末を掲げて見せため息をついた。

「こういうデザイナーが頑張っている系のものは苦手なんです」

作業中の倒壊防止のため常にリツの能力で支えながら解体するらしい。

「能力は持つのかい?」

「……気合いでなんとか」

彼女はそんな体育会系な事を言う人柄だっただろうか?

「ハンドレットパワーと違い途切れなければ持続しますから。1日2回まで休憩できる計算ですね」

なんと、彼女の労働環境の過酷なことか。

「そ、その状態で2、3日徹夜なのかい?」

「おそらくは。ドリンク剤の手配をお願いしました」

彼女は苦笑いを浮かべ、タイタンインダストリーの広告を指さした。

今日は既に1日走り回ってクタクタだろうに、これからさらに修羅場とは。

「私に手伝える事があればなんでも言ってくれ!」

「ありがとうございます」

そうは言っても私が役に立つことなどないのかもしれない。
せめて終わった時に迎えに行くことくらいだろうか。

彼女のためになにかしたい。


その想いも虚しく、彼女はそれでは、とお辞儀をして去って行った。




壊れた道路のアスファルトはすべてはがされ真新しいアスファルトが敷かれている。

大きな通りは明日にでも通行止めが解除されるだろう。

今回の事件は子供のネクスト差別が引き起こしたのだと聞いた。
ヒーロー事業が盛んなこの街はネクストに対する差別は少ないほうだと思っていた。

だがどうだろう。自分の知らないところでは一人の少年をこんなにも追い詰めるネクスト差別があって、
今回表面化した一例のみならず水面下では沢山の人がネクスト差別に苦しんでいるのだろう。

ネクストである自分がヒーローとして人々の為に働き、少しでもネクスト差別を無くすことが出来たなら。

一人でも差別に苦しむ人がいなくなって欲しい。

そう願わずにはいられなかった。




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