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▼ クリスマス

3か月前に付き合い始めた彼氏はドタキャンが多い。

最初は忙しい人なんだなーくらいにしか思っていなかった。

『ごめんリツ仕事が入った』

シンプルなメールで今日の私の予定はなくなった。



『さあ始まりましたヒーローTV! 聖夜になんと現金輸送車が』

『おっとこちらはなんとサンタクロースの格好をしたスリが』

『恋人の聖地に爆弾テロの予告が』

ふらりと立ち寄ったバーのテレビからは次々と起こる犯罪の実況が聞こえている。鬱々とした気分に画面を見あげる気力もない。

一杯、甘くてキツイお酒を流し込んで私はバーを出た。







「逃走車両を用意しろ!!」


ふらふらと歩いていたら走ってきたサンタクロースに捕まった。
そのままお花屋さんに引きずり込まれナイフを突きつけられている。

いわゆる立てこもり犯と人質ってやつだ。

外には警察と野次馬と、忍者の格好をしたランキング最下位のヒーロー。

こりゃ期待できないな。

他のヒーローは別な事件のところにいる。
店に流れるラジオを他人事のように聞きながら人質役をぼーっと遂行する。

ヒマだ。

近くにあった花を一本とる。

「スキ、キライ、スキ、キライ、スキ」

「何やってんだお嬢ちゃん」

ぷちり、ぷちりと花びらをむしっては床におとす。
首にひたりと当てられたナイフは私の体温を吸収してぬるくなっている。

「花占い。こうしてむしって好きか嫌いかを占う花にとってははた迷惑な迷信ーーうわキライだってどうしようクリスマスなのに泣きそう」

「その種類は六枚しか花びらが無いだろ。確実に悪い結果しか出ないと思うが」


「だってサンタさんの周りにはこれしかないし。彼氏にはドタキャンされるしなんだかクリスマスが嫌いになりそう」


「ひどいボーイフレンドだな」

「でしょう?年の瀬だし仕事が忙しいのは仕方ないのよ。そう思っていても何度もこうドタキャンが重なると割り切れない乙女心がね、もう子供っぽくてさ、自分がイヤになるの」

またぷちり、と新しい花をむしる。

スキ、キライ、スキ、キライスキキライ

「かわいそうになぁ。そうだ嬢ちゃん、車が来たら俺とドライブに行こうか」

「あら素敵。安全運転で夜景の綺麗なところにお願い」




「!」










なんともびっくり、見切れ担当折り紙サイクロンが正面突破してきました。

あっという間に取り押さえられ私はちょこっと顎を切っちゃって大げさに手当をされました。


「どういうつもりリツ」


どういうつもりなのかはこちらが聞きたい。

折り紙サイクロンにそのままトランスポーターに引きずり込まれ睨まれている。

そう、睨まれているのだ。


「声は似てると思っていたけどまさか中の人がイワンだったとは」

「ほかの男と夜景?」

「うわ浮気未遂見られたわ」

「絶対ダメでござるよ」

ござる……口調がまだヒーローモードだ。

「途中でいなくなったりドタキャンしたり、謎が解けたわ」

「それは……申し訳ないと」

「いーよ、仕方ないもんね、犯罪は待ったなしだし」

「……嫌いになった?」

「お花は嫌いだって教えてくれた」


「っじゃあ花びらが奇数のお花探してくるから! だから一緒にいてよ浮気はヤだよリツ……僕だけにして」

最後は消え入りそうな小さな声。
ぎゅっとすがりついて来る金色のフワフワに指を差し込んで撫でる。

「今日うちに来て、イワン」

クリスマスらしさはないけれど、デートの、やり直しをしよう。




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