▼ クリスマス
「ちょっと虎徹さん!早くしないと楓ちゃんの出番きちゃいますよ!」
『だっ!!ちょっと今渋滞に捕まってて……』
今日はクリスマスイブ。
プロのフィギュアスケーターと楓ちゃんたちジュニアのスケーターでミュージカル仕立ての講演があるのだ。
そして私もネクスト能力でキラキラーっとそれっぽく演出をするためスタッフとして会場にいるのだが、いっこうに現れない招待客に痺れを切らして電話をかけた。
「お父さんきっと来れないよ」
「!」
沈んだ声に振り向けば我らが本日の主役、楓ちゃんがいた。
「大丈夫、ぎりぎり間に合うよ」
「いっつもなんだもん。仕事が入ったとか、仕事仕事そればっか」
楓ちゃんはお父さんの職業を知らない。家族の安全の為に伏せているのだ。
「そうだね。虎徹さんはいっつも仕事仕事。でもね楓ちゃん、お父さんの仕事はすっっっごく素敵なことなのよ。虎徹さんがいないとどうにもならないから、虎徹さんが呼ばれるの」
「ただのサラリーマンなのに?」
「えっとぉ……うん、まあそうなるかな」
「ふーん」
だめだ、楓ちゃん疑ってるよ虎徹さん!
確かに普段の振る舞いからは想像もできないから仕方ないと思う。けれど、人を助けることに関して彼はいつでも真剣なのだ。
ワイルドタイガー
ヒーロー歴十年以上、彼はいつだって休みなくこのシュテルンビルトを守ってきた。
壊し屋の名のとおり壊されたものもその代償も大きかったが。
「さ、そろそろスタンバイしないと」
楓ちゃんの背中を押す。
「きっと間に合うよ。だから最高の演技をしてね」
*
「良かったよかえでぇ〜〜!!」
「ちょっとやめて離れてよお父さん!」
ギリギリセーフ、なんとか虎徹さんは間に合った。
楓ちゃんの演技も素晴らしかった。
「どっかメシ食いに行くか!」
「リツさんも行こう!」
スタッフとしての仕事は終わった。
けれど。
「親子水入らずで行っといで」
「だからリツさんも一緒がいいの!!」
ん?
ニコニコと笑う楓ちゃんから今凄いことを言われた気がする。
「ほら、お父さんもちゃんと誘ってよぉ!!」
「だっ!?」
「ね、いいでしょ?」
「あー、リツも一緒に行こうぜ……行きませんか」
あれ、虎徹さん赤くなってる。
「じゃあおじゃまさせてもらいます」
多分きっと私の頬も赤くなっている。
最近の子はどうしてこう機微を感じ取るのだろうか。
いや、子供は大人が思うほど子供じゃない。その理屈は自分が子供の時に既に分かっていたはずではなかったか。
「悪いな、付き合わせて」
「いーえ」
いつか本当の親子に、家族になってクリスマスを過ごせたら。
「リツさんは何食べたい?」
「んー、楓ちゃんは?」
「あのね、パフェあるところがいいな!」
きっともっと幸せになれる。
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