▼ その手で確かめて
「話がある」
深刻そうな顔をしてそう切り出した彼の後ろをついていく。
無言
静かな廊下に二人分の足音だけが空気を震わせている。
非常口から外に出ると、キースが振り向いた。やっぱり深刻そうな顔だ。
「リツ、その……頭がおかしいと思われても仕方が無いと思うのだが……」
「どうしたんですスカイハイ」
たっぷりためらった後、スカイハイはゆっくりと口を開いた。
「男同士なのにこんなことを言うのは間違っているかもしれないが……」
あ、これは展開読めたぞ。
「君を見ていると胸が苦しいんだ!視界にいないと常にリツを探してしまう……」
うーん、それは多分、恋です。
「リツのことを好きになってしまった」
本当は私は女だよ。
でもそれは言ってはいけない契約だから。
「スカイハイ、あなたはどうしたいですか?」
「どう……私を気持ち悪いと思わないのかい?」
そんな目で見ないでください。
捨てられた犬を彷彿とさせるような、すがるような目。
「思いません。ファイヤーさん曰く恋する気持ちは何人たりとも邪魔する事は出来ないそうです」
「私は難しいことはわからないよ」
「簡単ですよ。スカイハイが私に好意を持ってくれていることはわかりました。それで、スカイハイはどうしたいですか?」
「……名前で呼んで欲しい」
「わかりましたキース・グッドマン」
「それから……」
「それから?」
キースはうつむいてしまった。
「リツと時間を、楽しい時も辛い時も全て共有したい」
「そうしよう。私もキースとそうなれたらいいなと思ってましたよ」
そう言えばキースは破顔した。
私より歳上なのに可愛らしいと感じるのはおかしいだろうか。
「私はスポンサーとの契約上決して口にできないことがあります」
「うん?」
「今夜お暇ですか?私の家に来れば、きっと貴方の憂いを払えると思います」
「それはどういう……」
「スポンサーとの契約上言えません。言えないのです。ですから、キース自身が確かめてみればきっと……」
そうか、と彼は笑った。
私の言いたい言えないことは伝わっただろうか。
「パトロールの後なら。少し遅くなってしまうけれど大丈夫かい?」
「ええ、お待ちしてますよキース」
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