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▼ または無い

「で?」

「で……だーかーらぁー好きになっちまったの!惚れちゃったの!」

「だから?」

「これ以上言わせんのかよ……」

あいつが田舎で見合いするって、アントニオから聞かされた。

俺はリツから何も聞いていない。ちょっと里帰り、しか言われてない。


「行くなよ」

「は?」

「は、じゃねーよ。他の男のとこ行くなっつってんの!!」

「はぁ?ナニソレ。なんであんたのいうこと聞かなきゃいけないわけ?」

見合いするって。

リツとは飲み友達だと割り切っていたはずなのに、他の男の隣で笑っているあいつを想像したとたん吐き気がして胸がぐるぐると気持ち悪くなった。

誰にも渡したくない。

「あのねえ虎徹。指輪外せないくせに何言ってんの。私を口説こうなんて百年早いわよ」

指輪

ともえとお揃いの結婚指輪。

「外せば、いいのか……?」

「ばーか。ダメに決まってるでしょ」

「帰ったらあっちで見合いするんだろ」

「アントニオから聞いたのね。そうよ。するわ……アンタと同い年のサラリーマン」

「俺じゃダメなのかよ」

「ダメよ」

「なあリツっ」

「私は一番になりたいの。二番手なんかさらさら興味無いのよ」

「リツっ!」

「もういない人には勝てないわ。そういうものだって虎徹がよく知ってるでしょう」


いつだって思い出すのは友恵のことで。

「じゃ、明日早いから帰るわ。アンタも潰れる前に帰りなさいよ」

いつも「またね」で帰るのに。

「また、なリツ」

「……おやすみ、虎徹」




次の口約束もしてくれない。





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