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▼ そしてさよならカスタード

言ってしまった。

ばたん、と自室の布団に倒れ込む。

顔だけ横に向ければ、お土産にと包んでくれた白くて丸いーーなんの装飾もされていない饅頭の包みがみえた。

リツさんのお饅頭はふわりとしていて、でもしっとりとしていて。バニラビーンズの香りのするカスタードクリームは口の中でとろけて。本当に美味しかった。

『またね』

そう言って彼女は送り出してくれた。

また、はない。

少なからずショックを受けたように見えた。が、すぐに困ったように笑顔を取り繕った。

『理由は、聞いたらダメなのかな』

理由は告げなかった。代わりにごめんなさい、と一言謝った。


これでいい。想いを断ち切って、また元通り生活すればいい。

ジワリ、と視界がゆがんだ。
知らないふりをして僕は枕に顔を押し付けた。









それからリツさんから連絡はない。もちろん僕から連絡をすることもない。

はじめの頃こそタイガーさんがまたお節介をやこうとしてきたがなんとか阻止している。
自分の気持ちに蓋をして、なかった事にするのだ。僕は恋なんてしていない。していなかった。それでいい。



それでも、テレビや雑誌、街角のディスプレイ、飛行船の広告など至るところで彼女の姿を見つけは胸がしめつけられたように悲鳴をあげる。

会いたい。

リツさんのご飯が食べたい。

リツさんの声が聞きたい。触れたい。僕だけに笑っていて欲しい。

ほらまた。油断するとリツさんのことを考えて、求めてしまう。




『ーーではリツさんモデルは引退なさるんですか』


「え?」

街頭の大型ディスプレイから聞こえた音声に思わず顔をあげた。

『はい。シュテルンビルトから引っ越してコンチネンタルエリアに行きます。祖父がそちらに住んでいるので』

『急ですね』

『もちろんお受けしているお仕事が全部終わってからですけどね』

『コンチネンタルエリアでは何をなさるんですか?』

『親孝行ならぬ祖父孝行をしようと思って。幼い時に両親を亡くして、私は祖父に育てられたんです』

『そうだったんですか……シュテルンビルトに戻って来る予定は?』

『そうですね……まだそこまで考えていません。でもいつか、戻って来たいと思います。ーー会いたい人がいるので』


会いたい人。
それが自分であればいいと思うけれど、そこまで自惚れるほど僕はポジティブじゃない。

シュテルンビルトからいなくなってしまう。

もう会わないと決めたのだからリツさんがどこに行こうと関係ないのに。なのに。

じくりと胸が痛む。

ああ、僕はきっとどこかで期待していたんだ。

同じ場所に、シュテルンビルトにいればまた会える、と。

会わないと決めたのは自分なのにずるい期待をしていた。

どこまで自分はダメな人間なんだろう。

リツさんの映る大型ディスプレイから視線を外し僕は目的地があるわけでもなくただひたすらに走った。

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