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▼ そしてさよならカスタード

まさか勝手に他人がメールを送りましたとは言えず、リツさん宅に向かうべくトレーニングを早めに切り上げた。

けれどちょうどいいかもしれない。

もうこうして会うのはやめます、と伝えよう。

友人として関係を続ければいいじゃないか、と言い訳がよぎるが、きっとそのうちそれだけでは満足出来なくなる。

自分の中に芽生えた気持ちを育てるわけにいかないのだ。

今のうちにこの芽を摘み取らなければ辛くなる。

そう何度も自分に言い聞かせ、マンションのエントランスで到着のメールを送った。






「久しぶりだね、イワン君」

これから伝えなければいけない事を思うと、彼女の笑顔に応えられなかった。









すこし、変だと思う。
エントランスに迎えに行けば、ずっと会いたいと思っていたイワン君の姿があった。

けれど、イワン君は笑わない。

当たり障りのない話をして部屋の中へ招き入れる。

食事はどうかと勧めてみたが不要だというのでお饅頭とお茶だけ出した。

「すごいね」

「普段はこういうの作らないんだけど、なんとなくね」

やっぱり他社のヒーローはまずかっただろうか。
でもヘリペリデスファイナンスの折り紙サイクロンを模したお菓子は難しい。
歌舞伎の隈取りのような特徴的なフェイスマスク。

チョコレートで書いてみようか。ーーだめだ、きっと線のメリハリがつかずに変になってしまうだろう。

そうだ、手裏剣のクッキーなら出来るかもしれない。今度挑戦してみようか。


もぐもぐとイワン君はお饅頭を食べている。一瞬笑顔になるも、やはり表情はどこか陰っている。

「美味しくなかった?」

「いえっ、すごく美味しいです!中カスタードだったんですね」

「なんだか難しそうな顔してたから。やっぱり他社のヒーローはダメよね、ごめんね」

そういう訳じゃない、とイワン君は首を振るが、やっぱりいつものイワン君じゃない。

何かあったの?

聞いても良いのだろうか。聞いても多分この人は愚痴をいうような人ではない。

まだ短い付き合いだが、何となくわかる。弱音くらいは吐いてもらえるような関係になれたらいいのにと思う。

「あの、」

そう切り出されたイワン君の言葉に、私は目を見張った。



「もうリツさんに会うのはやめようと思います」














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