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▼ ちょっぴり強引な兎虎饅頭

なんだかイワン君の様子がおかしかった。
悩み事でもあるのだろうか。

まだ付合いも短い。きっと私には相談してくれないんだろうな。

先日買った紫色の折り紙で鶴を折る。

願いが叶うよう、一つ一つ丁寧に折り目をつけていく。

初めて鶴を折って見せた時、祖父は手を叩いて喜んでくれた。


『凄いぞリツ!なんて格好いい恐竜なんだ!!』


鶴という鳥なんだと説明してもイマイチしっくりこないようだった。

祖父に喜んでもらいたくて、折り紙の本を買ってたくさん練習した。


「おじいさま、元気かな」

両親がなくなった後、すぐに祖父が迎えに来てくれた。
初めて会う祖父は怖そうな人で、ハグを求められて固まってしまったのを覚えている。

怖そうなのは見た目だけで、仕事が忙しくても一緒に遊んでくれたし、社長室の隅に私の居場所を作ってくれた。

綺麗にインテリアの纏められた部屋の一角だけカラフルで、きっと家具のコーディネーターはあのちぐはぐさを見たらがっかりするだろうと子供心ながらに思ったものだ。





イワン君に会いたいな。


その願望は口には出さない。出してしまえばきっと我慢出来なくて、さみしくて辛くなってしまうから。

ケータイをちらりと見る。

彼からメールは来ない。

きっと仕事が忙しいのだろう。だって彼はヘリペリデスファイナンスの社員なのだから。

以前も急な呼び出しで帰ってしまったし、他の人からも必要とされているポジションの人間なのだろう。

「あっ」

考え事をしながら折っていた為折り目がズレてしまった。


「あーもう!」

私は折り紙を集めるとかごに仕舞った。

鶴は中止。お菓子でも作ろう。

なにか材料あったかな……


冷蔵庫を開け中身をチェックする。

「うーん……」

戸棚を開けて何か無いかとごそごそとあさるが、いまいちピンと来ない。

甘いものが食べたいな。お茶に合うような何か……

ふと、スプレータイプの洗剤が目に入った。

確かあのCMはワイルドタイガーとバーナビーだったような。


「よし」


卵と牛乳、バニラエッセンス。
薄力粉と、食紅、パンプキンのドライフレーク、ココア。

「ふふ」

うまくできるといいけれど。

私は材料をボウルに入れ、おまんじゅうを作り始めた。









「我ながらいい出来!」

白と黄色のお饅頭が蒸しあがった。

白い方はハサミでパチン、と二箇所切れ目を入れ立たせ、赤い食用色素を爪楊枝につけてチョンチョンと目を書く。

黄色いお饅頭にはシートを切り抜き上から茶漉しでココアパウダーをふりかけた。

ほんのり立ち込める湯気を吸って生地に染み込む。

「タイガー&バニー饅頭完成!」



ちなみに中身は餡子ではなくカスタードクリームだ。
うまく出来たので写真を撮る。

「ふふ」

用事はないけれど、なんとなくイワン君に見てもらいたくてメールで送る。


送信



してから気づく。
ヘリペリデスファイナンスのヒーローは折り紙サイクロンだ。
他社のヒーローを模したお菓子の写メは配慮に欠けていたかもしれない。


ああ、どうしよう。

もう送ってしまった。

イワン君の気分を害しませんように!

祈るような気持ちでケータイの画面を見つめた。












リツさんからメールが来た。
恐る恐る画面をタップしてメールをひらけば、そこには

「なにこれすごーい!お饅頭?かわいいね!」

「うわぁっ!!」

ドラゴンキッドがのぞき込んでいた。

「うさぎと虎って、バーナビーさんとタイガーさんみたいだね!」

どうしてこう、タイガーさんといいドラゴンキッドといい人のケータイを覗くのだろう。

ドラゴンキッドの言葉にサボっていたタイガーさんまでが寄ってきた。

「おっ!すっげーな。これもリツちゃんから?」

「ええ、まあ……」

「手作りかぁ〜すっげえな!おーいバニー見てみろよコレ!」

「あ……」


タイガーさんは僕のケータイを持ったままバーナビーさんのところに行ってしまった。

思わぬところから知ってしまった彼女の職業と肩書き、心にかかった靄は晴れないままだ。


「ごめんな〜サンキュ!」

返してもらったケータイを見れば、メールが届いていた。


もちろんいいよ!
何時くらいになりそう?


ーーん?

メールの送り主はリツさんだ。
どういうことだろう。

ふと顔をあげればドヤ顔でタイガーさんが親指をあげていた。

ーーまさか!

送信メールを見てみると送った覚えのないメールがあった。


美味しそうですね
僕も食べたいな
今日行ってもいいですか?




「ちょっ!タイガーさん!」



高嶺の花を諦めようとしているのに。
なんて事をしてくれるんだろう。


もう一度うさぎと虎まんの写真を表示させ、僕はため息をついた。








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