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▼ コーヒーの粉をそのまま

「なーなー折紙!昨日どうだった?」

ジャスティスタワーのトレーニングセンターに入るなりタイガーさんに絡まれた。

「あ……」



「だっ!まさか振られたか!?」

「僕とリツさんはそんな関係じゃないです!」

そう。そんな関係じゃない。
そうなれたらいいな、と浮かれていた。

女の子と関わるのは元々苦手だし、また距離を置けばいい。

元の生活に、元の僕に戻るだけ。

そう、それだけなのに。

「なんか世界が終わりそうです……」

僕はソファの上に正座をして背もたれに顔をうずめた。

リツさんとの関わりを断つ。
それだけなのに、想像しただけで泣きそうで吐きそうでもう最悪な気分だ。

「あー、なんだよ、そんなにやばい喧嘩したのかよ」

「違います。僕とリツさんの関係は至って良好です。良好でした……」


「まーその、なんだ、おじさんに相談してみっか?一応経験者だし」

経験者。
そういえばタイガーさんは結婚して子供もいたんだっけ。

こういうとき、タイガーさんならどうするだろう。
僕は意を決して全てタイガーさんに打ち明けた。








「は?」

「……僕はどうしたらいいんでしょう」

「で、そんな事でうだうだしてたのかよ」

そんな事!
そんなことで済まされるなら僕はこんな思いしていない!

「つまり、折紙はその……えーと
ヒーローだってカミングアウトした後に別れたりしてスキャンダル的な事になるのがこまるんだろ?

でもリツちゃんのこと好きで、離れ離れになること考えて吐きそうになってるくらい好きなんだろ?
そんだけ好きならもうあれだ。まるっと手に入れちまえ」

「まるっと?」

「そう。まるっと!」

「つまり、プロポーズ大作戦!!結婚してしまえばもう怖くなーい!!」



僕は相談する人を間違えてしまったようだ。










「あらやだ。なぁんか湿っぽいわね」


タイガーさんに言われて何通りもシミュレーションしてみた。
けれど突き詰めれば突き詰めるほど最悪の結果しか出なかった。

あの凄いマンションに一人で住んでるような人と結婚?

僕なんかがご挨拶に伺ったらおじいさんに銃を向けられそうな気がする。

職業はヒーローです。

ダメだ。稼ぎは一般職よりいいが、いつ賠償金が科せられるかわからないし、何より怪我をしたりなんかして一生続けられるかわからない職業だ。

しかもキングオブヒーローとかならまだしも自分は最下位争いをしている見切れ職人だ。

もう僕はダメかもしれない。

転職も視野に入れなければならないのだろうか。最終学歴ヒーローアカデミーで世間一般にどこまで通用するのだろう。前職ヒーローっプラスなのかマイナスなのかわからない。

どんな男ならリツさんにつりあうのだろう。

やはりキングオブヒーロー?

そんなの僕には夢のまた夢だ。


「ちょっとアンタ、猫背通り越してなんか姿勢やばいわよ、背骨大丈夫なの?」

「あー、今は折紙に話しかけてもダメだ。かんっぜんにネガティブモードで」

「どうせ僕はただの見切れ職人ですから。姿勢も悪いしバーナビーさんのように見た目がいいわけでもないしランキングも下だしリツさんに見合う男じゃないんですつきあってすらいないのにプロポーズなんかできるわけないじゃないですかそりゃ結婚できたら幸せですけど毎日あんな美味しいご飯食べられたら天国ですけど多分リツさんのご両親もお祖父さんも反対しますよこんな僕じゃどうせ警備員に止められるような男ですから」

「あらやだこの子失恋したの?」

「いーや、まだ思いすら伝えてないらしい」

「あーんもったいない!……リツ?リツってもしかしてリツ・ニノミヤのことかしら?」

「「え?」」

僕とタイガーさんの声が重なった。

「……苗字知らないんです」

「んまっ!じゃあどういう子なの?」

「えと、料理がうまくて、和食がすごく美味しくて、ゴールドステージのすごいマンションに住んでます」

とっても可愛くて、笑顔が素敵で。
髪や目の色など他の身体的特徴も伝えた。
外側から見える事ばかりしか僕は知らない。

ファイヤーさんは少し考え、ケータイを差し出してきた。

「リツ・ニノミヤこの子じゃないかしら」

ファミリーネームはニノミヤって言うのか。
画面には彼女の姿が写っていた。
ーーでもこれって

「げ、芸能人」

「うちの取引先の会長さんのお孫さんよ。ナゴミっていうアパレルメーカー専属のモデルで、最近は和食ブームもあってお料理関係で引っ張りだこね」

僕の思考は停止した。



芸能人でお嬢様。
高値の花どころではなかった。



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