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▼ 70 デートらしいデートって。


「お前らってぶっちゃけどこまでいってんだよ」

放課後、ひと気のなくなった教室でスカイハイが表紙の最新号のマンスリーヒーローをめくりながらエドワードはイワンに投げかけた。

「ど、どこまでって……?」
「ほら、付き合い始めてえーと、何ヶ月だっけ?
キスくらいはしてんだろ」

何でもなさそうにサラリと放たれた言葉にイワンは誌面を見つめたまま動かなくなった。
みるみるうちに顔、耳、首と色づいていくのをさも楽しそうにエドワードは見て、悪い笑みを浮かべた。

「なーんか、お前らって見るからに健全なお付き合いって感じだよな」
「け、けんぜん……」

「一緒にトレーニング、一緒に勉強。 最近そればっかじゃねェか」
「し、仕方ないよ……休みの日以外は、ただの友達、だし……」

そればっか。確かにエドワードにそう言われてみれば、どこへ出かけるわけでもなく、イワンもリツもアカデミーの中が生活の場でもあるので必然的にそうなってしまう。

「もっとこう、なんかねェの?」
「そ、そういうエドワードだって、」
「お? お前がそれ言う? 俺だって彼女欲しいけど。 休み時間ごとにヤローが寄ってくる俺にどんな隙が? 」
「ご、ごめん……」

「イワンだけってわけじゃねェけどな」

そういえば、とイワンは思い返す。
元々気さくでいろんな人間に声をかけ友人の多いエドワードは、先日のテロ対策の授業でリーダーシップを発揮しより人に囲まれるようになった。

途中からはリツの案をエドワードが取入れた形になったものの、クラスメイト達への指示などはすべてエドワードが行っていた。
明るく気さくなエドワードに集まる人望は学年の枠さえ超えつつある。

人望があって成績優秀で、ヒーローにふさわしい、ようで。

なんだか遠くにいるようで。

「……」
自分はエドワードに遠く及ばない。
そんな、日々感じている劣等感がイワンの中で一際大きくなった気がした。


「なーに暗い顔してンだよ。 」
「だ、だって……」
「なんかイベントでもありゃ誘いやすいんだけ……お?」

パラパラとマンスリーヒーローをめくっていると、エドワードの目が一点を見て止まった。

「……いいんじゃねえか?」
「……ど、どうやって誘えば」
「そりゃー……デートしようぜってフツーに誘えばいいんじゃね?」

フツーのハードルが高すぎる。さすが人気者は違う。
イワンだってもう少し恋人らしいことがしたいお年頃である。
勉強を教えたり、一緒にトレーニングしたり、健全なお付き合いはほぼ毎日しているが、休日限定と宣言されてしまった諸々に関して自分からアクションを起こすには気恥しさやら照れやらが邪魔してイワンの中でとてつもなくハードルが上がっていた。

高いハードルはくぐれなんてそんな抜け道などあろうはずもなく、頭の中でアレが出来たら、もうちょっとこうでああでこんな感じに、など思春期特有の妄想を浮かべては覚えている最中の般若心経を脳内で唱えて煩悩を払おうと努めている。

「女子はこんなの好きだろ。ゆるキャラ大集合、たくさんいれば一匹くらいはリツの好みのゆるキャラいるんじゃね」

ゆるキャラ大集合。ヒーローもくるよ。

次の休日にセントラルパークであるイベントだ。
ゲストにスカイハイとその他ヒーローの名前が連なっていた。

「さそって、みようかな」
「デートしてこいデート。」
「う、うん」
誘ったら、一緒に行ってくれるかな。

いつもどこかへ出かける時は、リツがイワンを誘い、アカデミーから引っ張り出す。
夜中にスカイハイのパトロールを見にアカデミーを抜け出した時も、
ニューイヤーのカウントダウンの時だって、全部リツがイワンを誘い、リードしてきた。

「お? モノレールの外装リニューアルお披露目イベントでスカイハイも?」
「クロノスフーズ主催の……肉の祭典」
「先着200名で牛串もらえるの?! いいね行こうよ!」
「うわっ!?」

雑誌を眺めていた二人は突然かけられた声に驚いて勢いよく顔を上げた。
「っリツ! いつからいた!?」
「つい今。 エドワード、センセーが呼んでたよ」
「あー……サンキュ」

今とは。いったいつから聞かれていたのか、少し気まずい思いをしながらエドワードは席を立った。
「じゃ、行ってくるわ」
「待ってエドワード、エドワードも一緒に行くよね?」
リツは雑誌を指さし問うが、エドワードはへらりとわらって手を振った。
「二人で行ってこいよ。デートしてこいで・え・と」
「えっ」
「え、エドワード……」

じゃあな、と言ってエドワードが去りイワンとリツが静かな教室に残された。

「……どうしたのエドワード」
「さ、さあ……?」
「気使わせちゃったのかな」
「さ、さあ……」
まあいっか、とリツはエドワードが座っていた椅子に腰を下ろした。
「外に出かけるの久しぶりだね」
「うん。リツクロノスフーズのところ行く?」
「牛串食べたいしね、朝早く並ばなきゃいけないかなぁ……一緒に並んでくれる?」
並ぶの嫌がられないだろうか、とイワンの顔を見れば、イワンも楽しみだというようにふわりと笑って小さく頷いた。

「イワンはどこ行きたい?」
「あ……お昼からの、ポセイドンラインのところの行きたい、かな」
「スカイハイ来るもんね。新しいモノレールかぁ、どんなデザインだろうね」
「リツはゆ、ゆるキャラ好き…?」
「ゆるキャラ? 嫌いではないけど、中身がわからないから、ちょっと怖いよね。
ほら、テロ対策の講義でもあったじゃん。
偉い人を近づける時には何度中身のチェックをしてもしすぎることは無いって」
「……そ、そうだったね」

そっちか、とイワンは先日の講義を思い出していた。一般人の人質を敵に偽装し、SAT役がとどめを刺すよう誘導するのは非人道的であると説教され、担当の教官はこめかみを抑えていた。

リツはヒーローよりはテロリストに向いている。
ヒーローアカデミーの教師達の中でそんな意識が生まれつつあった。




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