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▼ 69 悪逆非道のテロリスト


がつ、がつ、と隠す気のない足音を立てながら、SATの戦闘服を着込んだ人物が四人、3Fの廊下を歩いていた。

3Fの廊下にはSAT役の鮮やかなカラーパウダーが体に広がる死亡判定ほ生徒がゴロゴロ転がり、それと同じだけテロリスト役の生徒も転がっていた。

「なっさけねぇの」
悪態をつく生徒の耳元でちゃり、とピアスが鳴った。

「これ、どうなってんの?」

声の主はリツが探していたノーマンだった。

「すごい音がしたから隠れたけれど、私たち以外まさか全滅?」
「なめられてるね、最悪」

ノーマンたちは倒れるテロリスト役一人一人の顔を覗き込み、舌打ちをしたり、どこだ、などと呟いている。

「リツ・ニノミヤ、まだ死んでないだろ。 どこだ4Fか?」
「あー、あの一年のニホンジン、だっけ。 随分気にしてるけど」
「あいつムカつく」
「どーせ手当たり次第に下級生口説いてあしらわれたんでしょ」
「うるせーよ。
あの金髪もいねェな。 上か?」

列の最後尾に付いていたら悲鳴と激しい銃撃戦の音が聞こえ、めんどくさいし収まってから行くか、とトイレに留まっているうちに、どうやらSAT側最後のグループになってしまったようだった。

毎年行われるこの訓練に、もちろん1年の時ノーマンも参加していた。

(こーゆーの、普通先輩に花を持たせるだろ、馬鹿か?)

ノーマンはリツが入学直後のレクリエーションでのリツの立ち回りを覚えていた。
一番最初にゴールしたエドワード・ケディよりも注目を集めた二人。
どちらもヒーロー向きの能力ではなかったが、片方は身体能力の高さから授業で目立っていた。
遊んでやろうかと声をかけたものの、ただただ腹立たしい結果に終わった鼻持ちならない女。

あの生意気な態度は先輩として許し難いものがあった。

今回の訓練でもおそらく最後まで残るであろう生意気な下級生は自分の手で仕留めたかった。


ふと、廊下の端にうつ伏せでたおれこんでいるテロリストに違和感を覚え頭から足まで視線を滑らせた。

「こいつ死亡判定じゃねぇな」

うつ伏せで倒れているテロリスト役の被弾箇所は足。
よく見ればほかにも何体か同じような死体役が転がっていた。

「あー、ちゃんと確認してとどめ刺さないと。 全くなにやってんだか」
「ラッキーじゃん、弾切れ?疲れて動けないのかな?どっちにしろポイント稼げるね」

「……」
死体未満の死体役は喋らない。
ぱん、と手の中のSIG226でノーマンたちは一人一人トドメを指していく。
8人分「トドメ」を撃ち込み、指折り数えて自分のポイントをカウントする。
倒れている仲間の手からマガジンを抜き、ペイント弾を移し替え補充する。

死亡判定の仲間を跨いで歩く。 トラップや伏兵に神経を研ぎ澄ますも、結局3Fでは攻撃を仕掛けられることなく、すぐに4Fへの階段へたどり着いてしまった。

「いいのかねぇ、こんなあっさり……罠か?」

ノーマンはSIG226を構えて階段手前の壁に隠れ耳を澄ませた。

上階からは何も聞こえてこない。
階段のバリケードも半分壊され、あちこちにカラーパウダーが広がっているところを見るとかなりの撃ち合いをしたあとのように見えた。

「……」
少なくともリツ・ニノミヤ、イワン・カレリン、エドワード・ケディの姿を見ていない。
顔まで確認せずとも、テロリスト役の髪の色を見ればすぐ分かる。
最低三人はテロリスト役が残っていることになる。

ふと、ノーマンは後ろを見た。

「……なんだ?」

後ろにはトドメを指した死屍累々。
死体役とはいえ本当に死んでいる訳では無い。
大胆に移動しなければ身じろぎぐらいは許されている。はずだ。
苦しいうつ伏せでじっとしていなくても良いはずだ。

「……」
「ノーマン、どうした?」
「……いや」
ノーマンは眉をひそめ、そっと階段から離れ廊下を戻る。
死体になったテロリスト役の1年生は軒並みノーマンから顔が見えないようにしている。
1年の顔を見ても名前まではわからない。

だが、SAT役の2年生は、友人達はどうだ。

なぜ味方の死体まで顔を見せないようにしているのだろう。


ぞわりとノーマンの全身の産毛が逆立った。

腹部に一撃カラーパウダーが広がっているクラスメイトに早足で駆け寄った。
うつ伏せで倒れている生徒だらけの中、唯一壁にもたれかかり、俯いて頭からタオルを被っているSATの戦闘服を着た生徒の肩に手をかけた。

「なっ、」

「ん、ふふ」

ん、と鼻を通した声。
腹部に大きくカラーパウダーの花を咲かせたSATの戦闘服を着たリツは顔を上げ、
にやり、と笑い手を銃の形にしてばーん、とノーマンを撃つ真似をした。

「そういう事か……」



ノーマンは銃を持っていない手で額をおさえ天を仰いだ。

「お疲れ様でーす!」
「クソッ!!」

分厚い手袋をつけた拳でドン、と壁を殴った。
ノーマンたちはすっかり嵌められた。

明るいリツの声とともに
廊下の天井の「蓋」があき、銃を構えたエドワードがノーマンに狙いを定めトリガーを引いた。














「あーあ、ノーマン先輩ひとりだけめっちゃ説教されてるーぅ! やったねー!」
「ちょっと予定は狂ったけれど、楽しかったわ!」

ひとしきり1年生が勝利を喜び、撤収と後片付けをした後、ハンナとリツは二人でハイタッチをした。

「リツ、お前ほんと性格悪いな」
「エドワードひどい。 テロリストだからね、いいのいいの!」
「そうよ、ノーマンは女の敵なんだから! 」


(能力悪用したノーマンを同じ擬態系ネクストとしては許せないからね!)

本当ならばリツがノーマンにトドメをさしたかったが、SATの服を奪う時に死亡判定になってしまった。

ターゲットのノーマンたちの小グループが最後まで残ったために公開処刑することとなったが、結果オーライと言って良いだろう。

「ハァ……」

エドワードは大げさにため息をついた。

「とどめの一撃はエドワードがやったんだし、ポイント負けたけど、『勝てた』んだし、細かいことは気にちゃダメだよ」

ポイントの合計点はテロリスト側はSAT側に負けた。
テロリスト役が何人も死亡判定となり捨て身でSAT側を「生け捕り」にしたためである。

ポイントをわざと抑え負けた上で、
一年生勝利の判定を講師が下すように、どこまでもノーマンの鼻をへし折る作戦に変更したのだ。


「人質にテロリストの服着せて死体役やらせてSATにトドメ刺させるって……エグすぎる」

「正義の味方がばすばす人質の一般人殺したわけだからねえ。
本来なら懲戒免職どころじゃないよね。

味方の死体の確認もしない。 死亡判定の人の服着てたから銃じゃなくて手でバーンしたけど、味方に成りすます私……テロリストにも気づけない。

現場なら後ろから撃たれてたね。」

「あのノーマンって先輩、市警の特殊急襲部隊志望だったらしいぜ」
「そうなのエドワード
うーわー! SAT志望は知らなかったなぁ。ねえ、ハンナ!」
「ええ、知らなかったわ。すごっい偶然ね!」
「講師のSATの人も先輩の名前顔今日の事バッチリ覚えちゃっただろうねー、びっくり!」

わざとらしく驚いてみせるふたりにイワンとエドワードはぶるりと身を震わせた。

この一件はイワンとエドワードの心にしっかりと刻まれた。

女子──特にこの二人を敵に回すことだけはするまいと。



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