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▼ 67 ターゲティング


対テロリスト訓練に参加しているのはSAT役の2年生が13人、うち4人死亡判定、腕への命中が1人。
テロリスト役の1年生は19人が参加、うち死亡判定7人、1Fは制圧されてしまい今のところSAT側が勝っている。

『気を緩めるなよ。 こっちが残りひとりになったとしても、向こうを全員死亡判定に持ち込めばこっちの勝ちだ』

「サー、いえっさー」

リツは気の抜けた返事を返した。

下からは「意外と簡単だなー」なんて舐めきった声が聞こえる。

『──んだけど、残弾数がやばい』
「えっ」
『4Fの人質周り固めてる奴らはカラのマガジン着けてる』
「…………」
『3F報告です。 窓からの一斉射撃でマガジン3つ使い切った』
「…………」
『ごめーん、誤射して20発くらい無駄にしたー』

「…………具体的な残弾数は?」

『あー、4F満タンのマガジンが12』
『3F満タンが7』

「あの……威嚇射撃は1人でいいからね、 あと打たない時はトリガーに指かけちゃダメだよ、下手したら2秒で全弾打っちゃうよ。
マガジン1つ30発、ねえ、銃、変えたら……」

リツは頭を抱えたくなった。 ちょこっとグラウンドで訓練した程度で扱える代物ではなかったのだ。

実戦ならば30発2秒で撃ち切り、火薬の熱で素手では持てないほど熱くなる。
訓練でよかったと心から思った。

しかし弾数が少ないとなれば無駄撃ち出来ない。

『おーい、イワンは? 撃ったか?』
『…………』
『イワーン?』
『……あ 、僕はまだ……こっちまで来てないし、』
「エドワード、上にカラの模擬薬莢たくさん転がってるでしょ。
すぐに3F 4F のかき集めてゴミ袋にいれてイワンのいる3F階段前に持ってきて。 お願い。 」

『良いけど、なにすんだ』
「転がす。 今から私も見つからないように移動するから、はやくお願い」

真下を通るSAT役に聞こえないよう声をひそめて会話をする。

『リツ、ノーマンは一番後ろから7番目よ。 腰抜けね。 もうすぐ階段を登り終わるわ。……半分は2Fを検索して回るみたい、何人かは挟み撃ち防止で階段付近に残るみたいね』

──トン

リツはそっと「蓋」に手をかける。
今度は廊下ではなく教室の中の配電工事用の「蓋」から狙う。

そっと音もなく蓋を持ち上げずらし、耐震工事で追加されたらしい金属のバーに足を引っ掛けて体を逆さにぶら下がり顔を出した。
真っ黒に塗りつぶしたスプリングガンを構えフロントサイトに合わせ、軽く息を吐きトリガーを引いた。

ぱすっ

乾いた軽い音と共に標的のブーツに命中した。

ォオン、と微かな金属の振動音がリツの手の中で響く。

急いでスプリングガンと頭を引っ込め蓋をして、また重しをかける。

『ナイスリツ! あは、ノーマンびびってるわ』

足に感じた衝撃とともに小さな悲鳴が上がった。
慌てて周囲の2年生が銃を構えたが、見えるところには何もなく、ノーマンにも色はついておらずで
仲間内では『びびり野郎の勘違い』ということで方がついたようだった。

どうせなら何発か玉を無駄にして欲しかったが、そこはしっかりしていたようだ。

『うん、発信機も動いてしっかり表示されてる。 成功ね』

分厚いブーツに分厚い手袋、そして薄暗いフロアでは手で触って確かめることも、目視で確認することも難しい。
ましてや光を吸収して黒い平面に見える小さな点を見つけることは難しいだろう。

『リツ、ゴーグルに位置情報を送るわ』

──トン

ハンナの言葉に遅れてゴーグルの左のレンズに光の点が複数表示された。
校舎の廊下、角、天井、教室の隅などにも位置を示す発信機を早朝のうちに仕込んである。
ぼんやりと浮かぶ教室の立体像と、一つだけ色の違う点。 赤の光がゆっくりと動いていた。

『これでターゲットを間違えたりしないわね。
ちゃんと表示されてる?』

──トン

『ああ、リツ、あなたのいる教室と、そのとなりの教室を調べ終わったみたいね、みんな移動するわ』
──トン

「こちらリツ、今から3Fに移動する。 窓から入る、カーテンが揺れるけど私だから撃たないでね」
『気をつけろよ。 どっち側だ』
「玄関の反対側。 外に誰かいたりする?」
『──いる。 ライフルじゃない、小さい拳銃持ったやつが二人。 片付ける』
「お願いねエドワード。 イワン、エドワードが発砲音したら近くの窓開けて、すぐに離れてね」

リツは銃を脇の下のホルスターにしまい、またゆっくりと「蓋」をずらした。
音を立てないように、慎重にずらしてゆく。

「!」

上から連射の音が聞こえた。

『二人片付けた! 』
エドワードの声とともにリツは天井裏から飛び降りた。くるりと転がり窓へ駆け寄り暗幕をずらして窓から身を乗り出した。

「音がしたぞ!!」
「げっ」

バタバタと足音が近づいてくる。 廊下を引き返してきたのだろう。 リツは急いで窓のサンを掴み上へと登る。
エアコンのダクトパイプに足をかけさらに上へと手を伸ばした、瞬間。

「やっぱり、気合い入ってんなー。 ヒーロー目指してないってまじ?」

すぐ上から、壁を縦横無尽に歩き回る、ヤツの声がした。


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