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▼ 季節外れの筍ご飯と


「筍の炊き込みご飯と、若竹汁、筍の天ぷら……あ、これカニカマの天ぷらなんだけどね、中にチーズが入っててーー」

リツさんの料理はとても美味しそうだ。

「写真撮ってもいいですか!?」

「いいよ、こんなのでいいの?」

こんなの、と彼女は謙遜するが僕にとってはどれも素晴らしく輝いて見えた。

「デザートもあるからね」

「筍の、ですか?」

「それは流石に難しすぎるかな」

リツは苦笑いを浮かべ、冷蔵庫の方をちらりと見た。

「キンカンって知ってる?」

キンカン?
知らないとかぶりを降れば、リツさんは人差し指と親指で小さな円を作った。

「これくらいのオレンジの仲間でね、皮ごと食べられるんだ。それを甘く煮てゼリーにしてみたの」

「今からデザートが楽しみです!」


いただきますと手を合わせて、まずは味噌スープ。

出汁と味噌の香りがふわりと鼻を抜ける。

筍の歯触りが心地よい。

沢山あるからね、とリツさんの言葉に甘えて筍ご飯もおかわりした。

天ぷらも天つゆだけじゃなく変わった塩も用意してくれたようで全部試した。

抹茶塩に桜塩、柚子の塩と塩なのに不思議な味がした。


「イワンくん、細いのによく食べるね」

ふふ、とリツさんが笑った。
その顔がとても可愛くて綺麗で、僕は多分顔が赤くなっていたと思う。

顔だけ能力を使って平静な状態にしてしまいたいと心から思った。


リツさんは料理がすごく上手だ。
ちらりと見えた調理家電は大きめのもので、一人暮らしの物には見えなかった。

そういえば僕はリツさんのことほとんど知らない。

年も、苗字も、学生なのか働いているのか。何も知らない。

聞いてみようか、と思ったところで自分の矛盾に気づく。

もし、聞き返されたら?

彼女は僕がヒーローだと知らない。
知らないのだから正直に話せばいい。

でも。

でももしこの先僕がヒーローだと気づいたら、バレたら。

あまり個人的なことを話すのは良くないことかもしれない。

知りたいけれど、自分は教えられない。アンフェアなことはあまり好きじゃない。

「イワンくん?」

リツさんの声に現実に引き戻された。

「大丈夫?キンカン苦手なら無理しないで」

慌ててスプーンを手に取る。

「大丈夫です!ちょっと考え込んじゃって……」



もっと深く関わりたいのに関われない。その事に気づいた途端、とても楽しいひとときのはずが、急に辛くなってしまった。



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