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▼ 64 迎え撃つ用意


テロリスト役、SAT役双方にペイント弾を仕込んだ銃器が支給された。
一通りのレクチャーがあった後、それぞれ二手に分かれて作戦会議となる。 与えられた時間は一時間。


「じゃ、ヒーロー志望は階にバラけて遊撃でポイントを稼ぐのがいいかな。
リツとニコラは偵察頼む。 後は人質の周りに三人は欲しいな。
階段にも一人づつ、もしSAT役が見えたらすぐ合図してくれ。
俺らは初めてでどうなるのか全く予想がつかない。 柔軟に対応できるようにしないとな……
なんか他に案はあるか」

校舎の一階で武装した一年がエドワードを囲み作戦を立てていた。
他に案は、とエドワードが投げかければリツが手を挙げた。

「はいはい! 階段担当の人はSAT役を登らせないようにばばばっと連射できるやつがいいんじゃないかな。
あと窓は塞ぎたいから暗幕、無理ならカーテン、それと要所要所に机と椅子でバリケードつくろう」
「ああ。 暗幕はちょっと暗くなるが……あとはそうだな、ネクスト能力の確認だ。 なるべく能力使いながらの方がアピールになる。

なにも先輩方の引き立て役に徹するこたないだろ。
……勝つぞ」

勝つぞ、とエドワードは鋭い目つきで周りに集まる生徒を見渡した。

ペイント弾が相手チームにの足に被弾すれば3ポイント、胴体と頭に当たれば10ポイント、頭と胴体に被弾したものは死亡と見なされ退場。手足でも2発被弾すれば行動不能の判定で退場だ。
SAT側は仲間に被弾すると減点がある。

これだけだと誰彼構わず撃ちまくることが出来るテロリスト側が有利に思えるが実はそうでもない。

四階まである校舎の1フロア制圧ごとに10ポイントがSAT側に与えられ、制圧が早ければ早いほど加点されるタイムトライアルな側面もある。

つまりは制圧されるのが前提の訓練であり、よほどのことがない限りはテロリスト役の1年生に勝機はない。

「勝てばトレーニングルームの優先使用権、プロテイン3ヶ月分、バーベキューが待ってるぞ。
俺達の底力見してやろうぜ!!」

おお、と周囲から声が上がった。
早速配置と細かい作戦を立てるべくエドワードは校舎の見取り図を広げた。
ああでもないこうでもないと周りからの意見を書き込みつつ、たまに頭をガシガシとかきながら唸っていた。

ちょい、とリツの袖が引かれた。
振り向けばイワンがリツの袖を掴みもの言いたげにしていた。
生徒の輪から外れて教室の隅に行けば、こそりと小さな声でイワンが耳打ちをした。

「リツ、何か隠してない」
「えっ」
思わず肩が動いた。
じとりとイワンはリツの作業服を見、指をさす。
「何か、仕込んでるよね」
「……んー、えーと、その、あれだよ、女の子って色々必要でさ、はは……」
「……」
笑顔でごまかそうとしたが、イワンは納得せずに胸元、腰、と妙な膨らみのあるポケットに視線を送りため息をついた。

「なにするつもりなの」
「なにも……って言いたいところだけど、うーん、エドワードとかほかの人にはないしょにしてよ」

神妙な顔をして口に手を添えれば、イワンは眉を下げ耳を向けた。

「ちょっとしたお礼をしたくって。 大丈夫、危ない事じゃないよ、お礼だから」
「お礼ってどういうこと……」
「まあ、ごくごく個人的なこと。 みんなの成績に悪影響与えるような事じゃないからさ、お願いイワン、見逃してっ」

このとおり、とリツは手を合わせた。

イワンはなんとかため息を飲み込んだ。
一体何をするつもりなのか、さっぱりわからないが具体的な内容を頑なに言わないことを考えればこれからしでかそうとしている事はおそらく褒められたことではないはずだ。

「……リツ、危ない事じゃないんだよね」
「うん」
リツはイワンの目をまっすぐ見て応えた。
じ、と正面から見つめられ、先に視線を外したのはイワンの方だった。

「おーい! バリケード作りに行くから手伝ってくれ!」

エドワードが二人に声をかけた。
イワンはまだもの言いたげにしていたが、リツは返事とともに椅子を担いで教室から出ていってしまった。

「イワン、暗幕なんだけど……どうした?」
「……なんでもない、よ」
「大丈夫か? 」

エドワードはバリケード用の机を一旦下ろしイワンの瀬をバシッと叩いた。

「っ!」
「しっかりしろよ。 ヒーロー目指しててテロリスト役ってのも皮肉なもンだけどよ、点数稼ごうぜ」
「う、うん……」

「そうだ、勝負しようぜ」
「えっ?」
「どっちが多くSAT役に当てるか」
「む、無理だよ……当たらないよ」

ペイント弾を仕込んだ銃は本物同様の重さがある。
グラウンドで少し練習した程度で当たる気はしない。

「イワンの配置は階段近くだろ。 AKで連射するんだから数打ちゃ何発かは当たるだろ」

玉数の多い自動小銃は相手に突撃されないために脅しにもなると皆がこぞって手にした。

「エドワードだって」
僕と同じじゃないか、と言おうとしてイワンは言葉を止めた。
そう言えばリツの銃は、何だったか。 なんの銃を選んでいたのか。
皆が連射と装弾数の多い自動小銃を選んだ中、リツ一人だけ違うものを選んでいなかったか。

「ねえ、リツが選んだ銃って、」
「ああ、デカイのは重いからって小さい自動拳銃にしてたな」

確実になにかよからぬ事を考えている。
イワンが感じるリツに関するこういった予感のようなものは大抵大当たりする。



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