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▼ 56 新学期


「それで報告は全部?」
「うん。 なので背中に薬塗ってもらえると助かりますっ」

ヒーローアカデミーに戻り、何となく離れがたかったがこればかりは仕方ないと手を振って寮の入口で別れた。

リツが自分の部屋に戻れば、既にハンナが戻っていた。
テスト勉強のために早めに帰寮していたらしい。
休み明けの友人の定番の会話、「休み中どうだったー?」のハンナの報告もとい惚気を聞き、
リツが自らの身に起こったことを話せば、ハンナはわなわなと肩を震わせた。

「前々から思ってたけど……」
「なに?」
「リツ運悪すぎ!」
「うーん……でもイワンとの事は良かったと思うし……」
「それはそれ。 でもまさかホントに付き合うことになってたなんてねぇ。 おめでと、リツ」

ありがとう、とリツは苦笑いで返した。
さんざん迷い、悩み、気持ちを押し込める努力をし、結局イワンの気持ちが自分にあるとわかれば欲が出た。

「でも浮かれてばっかりはいられないよ。 休み明けのテスト……どころか宿題終わってないし」
「ハァ!? 馬鹿なの!?」
「そんなはっきり言わなくても」
「今すぐ頭切り替えて宿題終わらせないと! 休み明けのテストの補習受けてたらテロ対策合同訓練出らんないわよ」

「!」

忘れてた、とリツの目が見開かれる。
年に二回、アカデミーではテロ対策の講習がある。
シュテルンビルト市警警備部の特殊部隊による午前は座学、午後からは実践的な訓練が行われる。
午後の部は希望者のみが参加することになっており、補習が必要な者はそちらが優先となっていた。


「それはこまる。 楽しみにしてたんだ、このままはまずい」
「私はヒーロー目指してないから午後は見学のつもり」
「うん、危ないらしいしそれがいいと思う」

ヒーローを目指していなくても治安の良いとはいえないシュテルンビルトで警備警護の仕事に就くつもりならテロ対策の訓練は受けるべきだとリツは宿題の残りを思い浮かべため息をついた。









「真っ白に、燃え尽きたよ……」
「お疲れ様リツ。 補習がんばってね」
「ハンナひどい」

デジャヴか。
イワンの視線の先にはテストを終え机に突っ伏したリツと、リツを励ますハンナの姿があった。

前もテストの後はこんな感じだったな、とイワンは口元を緩ませた。

冬季休暇中に巻きこまれた事件による怪我でリツは宿題を終わらせたのが今朝方。
果たして補習を免れることが出来るかとイワンは恋人を心配していたーー表向きは。

本心を明かすならば、補習でテロ対策合同訓練を欠席して欲しいと思っていた。

危険なことをして欲しくない。

その想いはリツが事件に巻き込まれる度にイワンの中で強く、大きくなってゆく。
たとえ訓練でも模擬弾は使うし、格闘にだってなる。
怪我をするリツの姿を見たくなかった。

しかしそれはリツも同じで、クリスマスに面と向かってはっきり言われてしまい、それでもイワンがヒーローを目指す以上リツにだけダメだというのは憚られた。

難しい問題だ、とイワンはため息をつく。

「お? おおっ? ねぇハンナ! 私今回結構いい感じかも」

リツはハンナと問題用紙に書き込んだ答えを一つ一つ照らし合わせ、笑顔を取り戻した。

「やめてよリツ。 私そんなに間違えたつもりはないのよ」
「えっ……ひどいよハンナ……」

学年2位の成績を持つハンナと答えが一致してリツは喜んでいるようだった。
リツの一挙手一投足がなんだか可愛らしく思えてイワンの頬が上がる。

「!」

カシャ、と近くからカメラの音がした。

「変顔のイワンゲットー」
「や、やめてよエドワード……」
「そーしん」
「えっ? だ、誰に送ったの? 今すぐ消してよ」

にへら、とさも楽しそうに笑いながらエドワードは携帯電話をいじっている。

それに一拍遅れてリツがカバンから携帯電話を取り出し、開いた。 受信を知らせるランプが点滅しているのを見てイワンの頬が染まった。

「……」

にま、と笑いながらリツは携帯電話で口元を隠しイワンの方を見た。

エドワードはリツに向けて親指を立て、リツも同じく親指を立てて返した。

「エドワード……」
「何かなイワン君」
「もう危機回避救助講のノート見せないから」
「ハンナに頼んでリツの画像送るから許せって、な?」

バシバシと肩を叩かれイワンは不機嫌な顔を作った。
が、その後にエドワードの宣言通り送られてきたリツの画像を見て待受にしたいと葛藤する姿をまた写真に撮られまたリツに、というループをそれから数日繰り返したのだった。



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