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▼ 52 妄想2


丁寧に乾かし櫛で梳かせばリツの髪はサラサラになった。
黒くてまっすぐな髪。
さら、と指からこぼれてつややかな髪をイワンはいつもにもまして綺麗だな、と思った。

「ありがとイワン。 次、背中お願い、ね?」




リツはクロゼットを開け、手探りでパジャマを探した。

ベッドの上に座り、イワンに背を向ける。

「じゃあ……包帯とるね……?」
「うん。お願いします」

肩にある留め具を外し、解いてゆく。
(うわ、ど、どうしようっ)

肩から前へと精一杯腕を伸ばして包帯を解く。
腕をギリギリまで体から離さなければリツの胸に手が当たりそうで、イワンの精神状態はとんでもないことになっていた。

なんとか包帯を解き、ガーゼをゆっくりとはがす。

「っ」
「ご、ごめん……」
「大丈夫」

痛みに息を詰めたリツにイワンは謝る。けれどこればかりはどうしようもない。

首から背中にかけて赤く変色しており、それでも皮膚が爛れたりしていないことにイワンはほっとした。
薬を優しく塗布し表面に穴の空いたツルッとしたガーゼを当てた。
(痕残っちゃうかな……)

新しい包帯を手に取る。

そっとリツの前に手を回し巻いてゆく。
「きつくない?」
「大丈夫」

こうだったかな、とヒーローアカデミーの授業で習った巻き方を思い出しながら巻いていけば、少しがたついたものの、なんとか無事に巻き終えることができた。

「……終わったよ」
ふう、と息を吐き、イワンは薬や、捨てる包帯などを集めた。
「ありがと、助かった」
リツは包帯の上からそのままパジャマに袖を通し、胸のあたりでもそもそと何かを直していた。

「包帯キツかった?」
「えっ? 大丈夫!」
遠慮しているのだろうか、とイワンは首をかしげ、そして見えたものに思いっきり顔をそらした。

(ど、どうしようっ 直すべき……なんだろうけどっ! それだと僕が見たって事になっちゃうしっ
どうしたら……どうするべき!?)

リツは胸に食い込みよれた包帯を直していた。

「………………」
イワンはリツに背を向け頭を抱えた。

「イワン?」
「ひゃい!?」

変な声にリツは首をかしげた。
「あの……下も着替えるから……」
「ごめっ 今出てくからっ!」

まだリツの目が見えるようになっていなくて助かった、とイワンは熱をもった頬を手の甲で抑えた。












デリバリーの寿司が届き、緑茶の煎れ方をイワンに教えて二人は楽しく夕食を摂った。

「あ」
「どうしたのリツ」
「見えかけてる」
「ほんとっ?」

食事を終えるとかすかではあるがリツの目は光を感じるようになった。
三日は覚悟という話だったので、リツもイワンもほっとした。

「見える?」
「んー、物振ってる?」

「……手、振ってた」
「うーん、まだ光くらいしかわかんないや。いきなり見えるようにはならないみたいだね」

でも、とリツはニコリと笑う。
「このペースなら明日にでもアカデミー戻れるかな」

(あ……そっか、リツの看病のためだもんね……)
声が出るようになり、視力も戻る事は嬉しいことだ。
しかしイワンはほんの少し寂しさを感じていた。
「4日にはハンナも寮に戻ってくるし、手当もハンナにお願いするから大丈夫。
イワンにはホントに助けられたよ。 ありがとう」

「ううん……これくらい、別に……」

これくらいどうってことない。
むしろもっと頼って欲しいというのがイワンの本音だった。

(……たしかに僕はリツのお兄さんやエドワードより頼りないかもしれないけど)


「あ、イワンもシャワー浴びといでよ。私ばっかりやってもらっちゃったね」
「……リツは今怪我人だし……」
「イワンが怪我したら看病してあげる」

看病。

(リツが……僕を看病……?)

マンションに来てから先程までの手当を思い出してイワンは目が泳いだ。
(ずっと一緒にいて、リツがまたご飯作ってくれたり、髪を洗ってくれたり体を拭いてくれたり……)

考えるうち、頭の中のリツがニンマリと笑い、イワンの服に手をかけた。
『ほら、早く脱いで。 コレもだってば。 拭いてさっぱりしよ? それともやっぱりお風呂入れそう? 洗ってあげるよ、ゼンブ』

(な、な、何考えてっ! )
「だっ、ダメっ無理っ」
「え、ひどい」

イワンは少々いけない妄想を絡めてしまい、思わず顔をそらす。
リツの目はまだ回復途中だが、それでも今の顔を見られたくはなかったし、純粋にリツに申し訳なくて顔を見れなかった。



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