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▼ 50 過保護2

「オジャマシマース……治ったかー?」

エドワードの声。
まだ見えないし声も出ないよ、とリツは首を振って応えた。

「やっぱまだ時間かかるんだな。 イワン、着替えテキトーに詰めてきた。あと携帯の充電器」
「ありがと」

どかりとエドワードはソファに腰を下ろした。

「もう新聞に出てたぞ」
ばさ、と新聞を広げる音にリツは顔を上げた。
イワンもエドワードの後から新聞をのぞき込んだ。
「……犯人は?」
「捕まってないな。 けど防犯カメラに映像が残ってたらしいから捕まるのも時間の問題だろ」

「リツは……犯人の顔みた?」
みてない、とリツは首を振る。

「そうか……怪我はどうだ?」
『大丈夫』
「ホントかぁ?」
本当かよ、とエドワードはリツをじと、と見た。
「……エドワードも読唇術できるの?」
「いいや。 昨日も『大丈夫』って何回も言ってるからそれだけ覚えたわ」

う、とリツは言葉に詰まる。
もっとリツに言ってやって欲しい、とイワンは期待を込めた目でエドワードを見た。

「どう考えてもスタンガンの火傷が痛くねェわけないだろ。
縛られた痕もちらっと見えたけど痛そうだし。
顔の絆創膏も、お前女なんだから気をつけろよ。

それに……見えない喋れないってどう考えてもしんどいだろ」

『あー……』
そう言われても、あまり心配をかけたくないので大丈夫以外の言葉が見つからないのだ。
困ったな、とリツは頬をかいた。


「ま、でも思ったよりは元気そうで安心したわ」

ぱさ、とエドワードは新聞をたたみテーブルに置いた。

「なんか要るのあるか? あるなら買ってくるけど」
不要だとリツは首を振る。

「早く戻るといいな。」

リツは頷き、またぽふりとソファの背もたれにあごを乗せた。

「オレは寮戻るわ。二人の邪魔しちゃ悪いしな」
「!」

にや、とエドワードは悪い笑みを作る。

「じゃ、邪魔ってっ ……そんなわけっ」
『変に気使わなくていいよー』
「ほっ、ほらっ、リツもそう言ってるしっ」
「いや、だから口パクわかんねーから」

頬を赤らめエドワードの言葉を否定するイワンだったが、エドワードは「はいはいゴチソーサマ」と手を振って帰ってしまった。

残された二人の沈黙。
やっぱりDVD流してた方が良かったかもしれないとイワンは思った。
ふと時計を見ればもうすぐ10時になろうとしていた。

「そろそろ痛み止め飲む? 抗生剤も飲まないと……なにか食べれそう?」
早朝に鎮痛剤を飲んで、また服用できる時間になった。
そろそろ痛み出しているのではないかとリツの表情をじっと見つめた。

『先に薬飲む』
「うん、待ってて」

リツの応えはイエス。 やはり痛みだしていたのかと、イワンは薬の名前を確認して一つずつアルミシートから取り出しリツの手に乗せた。

「……」
すっかり介護されてるな、とリツは苦笑する。

錠剤を口の中に放り込み、手渡された水で流し込んだ。
『ありがと』
感謝を伝えれば、イワンはリツの手をぎゅっと握った。

「……リツ、なんでも言って。 僕なんでもするから」
ふ、とリツは笑う。
手を開かせ、そこに文字を書く。
『過保護』
「っ! だ、だって……」
『イワンが考えてるより、平気だから。 家の中はだいたい間取りわかるし』

でも、とリツは指先を止めにこりと笑った。
『……イワンが近くにいてくれるおかげ。ありがとう』
「っ!」

思わずイワンは顔を伏せた。
今のリツは目が見えないのだから顔を見られたくなくてうつむく必要は無い。
なのに何故かリツにはすべて見られているような、そんな気がした。


やがて薬が効いてきたのかうつらうつらとリツの頭が揺れ始めた。
眠いならベッドに行こう、とイワンはリツの手を取った。
リツも大人しくイワンに導かれるまま歩く。

ベッドに寝かせ、深い呼吸に切り替わると、そっとイワンは手を離し、床に落ちていた薬の説明書を拾い上げた。
袋からいつの間にか落ちていたのだろう。
戻しておこうと、なんとはなしに説明書を見た。

(トラマドールとアセトアミノフェンと……セレコキシブ、抗生剤に……塗り薬が二つ)

そういえば、そろそろ薬を塗らなくてはいけないのでは、と気づく。

(あ……でも……塗る時は包帯とかガーゼも変えるし、ぬ、ぬぬ脱がなきゃ、いけないしっ!
いくら背中でもっ……背中はドレスの時に見てるけどでもっ
どうしよう、リツ一人じゃできないよね!?)

気づいた途端目の前にドレス姿のリツ、服を脱ぎ恥じらいながら背中を向けるリツ、その他言葉にするのがはばかられるようなイワンの妄想が一瞬で駆け抜けた。

(な、何を僕は……)
頬を両手でおさえ、イワンは一つ深呼吸をした。

けが人相手に馬鹿なことを考えるな、と己を叱咤する。
薬の説明書を畳もうとした時、リツの名前が目に入った。
(……あれ?)

疑問と同時に「そうか」と納得する。

(スタジアムで……お母さんの苗字名乗ってるって言ってたっけ)

リツの後に記された姓はイワンの知るものではなかった。

(なんでだろ)

不思議に思ったが、家族間の事情に部外者が口を挟むのも良くないと思い、イワンは見なかったことにして説明書をしまった。


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