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▼ 47 言い出したのは君、僕は悪くない。

「ここにいるから」
『ありがとう……?』

どうやらイワンは付きっきりでリツの看病をするつもりらしく、リツがベッドに入ると、手を握ったまま離れなかった。
ベッドサイドの床に座り込み、リツが夜中起きた時に困らないように一緒に居ると言うのだ。

大丈夫だからイワンも寝て欲しい、と手のひらに指で書けば、このまま寝られるから平気だと突っぱねられた。

リツは説得しようとしたものの、英語を書くのが苦手なリツはうまく伝えられずどうしようかと考える。

あちこち探し回ったのだとエドワードから聞いている。イワンも疲れているのだろうからちゃんと横になって休んで欲しかった。

寝ろ、とリツの兄は自分の部屋とゲストルームを二人に案内していた。

(うーん……このままじゃ絶対イワン寝れないよね…………あ)
一つの案を思いつき、リツはイワンの手を引いた。

「どうしたのリツ」
イワンは身を乗り出すが、リツは手に何かを書くわけでもなく更にぐいぐいと引っ張った。

「リツ?」
『一緒に寝よ』
口パクでは伝わらないかな、と思いつつもリツは口を動かした。

「!」
ギクリとイワンの体がこわばった。
(お? もしかして通じた?)

表情が見えないので正確には分からないが、もしや、とリツはニヤリと笑う。
『嫌なら兄貴の部屋かゲストルーム』
ダメ押しでリツはイワンの手に書いた。

「っ」
(僕の気も知らないで!)

どんなに心配したか。
リツがどんな目に遭っているだろうかと気が気ではなかった。
エドワードと走り回り、開けられないドアもひとつひとつ叩いて確認して、何度も警備室に行ってカメラに映っていないか確認を頼んで。

ざわざわとそれらの感情がイワンの中で蘇り渦巻く。

「っーー一緒に寝る!」
(……え?)
「リツが言い出したんだからね」
(え、ええ?!)

イワンはぎゅ、と唇を結びリツが横たわるベッドに片膝を乗せた。
(いつもいつも振り回されてやるもんか)
仕返しとばかりにイワンはいつもなら真っ赤になって逃げるところを堪えた。

今のリツからは見えていない、というのもイワンが思い切れた要因の一つだ。
きし、と体重で沈み込んだベッドにリツはイワンの本気を悟った。

(やぶ蛇!!)
リツの発言はきっとイワンは困って部屋を去るであろうと予想してのことだったので、
予想外の行動に出たイワンにリツは慌てた。

『せ、狭いよ私のベッドは!』
「……聞こえない」
(っイワンめ! 絶対わかってるな!?)

ぽす、とイワンは掛布団の上に横たわる。
「寝るよ」
『え? 本当に?』
「……ホント」
『やっぱり分かってるなっ』
「……しらない」
『イワン!』
「なに?」
『ほら! やっぱり分かってる!』
「……」

イワンはもう何も答えずリツの頭に手を置いて額に口付けた。

(うわ! うわ! ホントにイワンなわけ!?)
リツは恥ずかしくなって布団の中に潜った。












呼吸が深い寝息に変わった頃、イワンはそっと身体を起こした。
ベッドが揺れてリツが起きないよう細心の注意を払って降りる。

「……」
はぁ、とイワンはため息をついた。
寝る前に飲んだ痛み止めが効いているのかリツは痛みに顔を顰めることなく眠っている。

光すら感じないというので部屋の明かりはついたままで、リツの顔が良く見える。
頬には絆創膏が貼ってあり、首からは包帯が覗いている。
手を引く時に顕になった手首には結束バンドで拘束されてできた鬱血の痕が痛々しく見えた。
それでも痛いとは言わずヒーローショーを見れなかったことを謝ったりと他人のことばかりで、
イワンは少しは自分の事を気をつけて欲しい、と心の底から思った。

音を立てないように部屋から出てゲストルームのドアを開けた。
毛布を取りまたリツの部屋に戻る。
床に座り毛布をかぶってリツの指先を握る。

流石に朝まで同じベッドで寝る勇気は無かった。

(おやすみリツ)
ベッドに頭を乗せて目を瞑る。
広いスタジアムを走り回りクタクタだったイワンの緊張が途切れてしまえば、深く眠るまでそう時間はかからなかった。




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