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『ボンジュール・ヒーロー』

バーナビーとのデートはPDAからの呼び出しで強制終了になった。

『シュテルンビルト市街地で商業施設に爆破予告よ。
既に一つ爆発してるわ。至急現場に向かって!』

ぷつりと切れた通信に、ふたりは顔を見合わせた。
「お気を付けて」
「はい。 バーナビーも気をつけて」
「あれ、もう呼んでくれないんですか」
「……あれは列に並んでいる時だけですよ!」

リツの頬に朱が差す。
顔を反らせたリツを見てバーナビーの口の端が僅かに上がった。

楽しい時間も終わり。
その場で二人は別れトランスポーターとの合流のため走る。

ふとリツは街頭モニターを見上げ足を止めた。
緊急の映像に切り替わり、シュテルンビルト市街地が映し出されていた。
ショッピングモールの屋根が崩れ煙が上がっていた。

映像がアップになるにつれ、映像が二重に重なったように見えた。

(まただ……)

意味のわからない現象にリツは眉をしかめる。
見えるものがずれ重なって見えるので頭がクラクラしてくる。

二重に見える映像に、先ほど別れたばかりのバーナビーがヒーロースーツ姿で逃げ遅れた人を抱え救助しているのがみえた。
スカイハイも白いヒーロースーツを煤で汚しながら子供を抱えてでてきた。

「!」
空中でスカイハイがバランスを崩した。

(なにあれ!)

リツは口を抑え悲鳴を飲み込んだ。
(キースが……撃たれた……?)

ゆっくりとスカイハイは降下し、子供を下ろすと膝をついた。
大腿を抑えている。

はっと、リツは周りを見回した。
緊急ニュースを伝えているモニターからは一番乗りはドラゴンキッドだと字幕が出ている。
(まだドラゴンキッドしか着いてない……)

数日前からたまに見える映像。
ざわつく胸を落ち着かせようとリツは深呼吸をしてまた走り出した。












「私は先に行くよ!」
「……お気をつけて」

トランスポーターに入ると同時にスカイハイが飛び立った。
先程見た事を伝えようかと迷ったが、ただの幻だ、と自分に言い聞かせ告げなかった。

きっと不安がまさって白昼夢のようなものでも見たのだろうとリツは結論づけた。

トランスポーターのスタッフの手を借りてヒーロースーツを身につけ、ヒーローステルスリッターも現場へと飛び出した。





「ひどい……」

到着するまでの間に火災が起こり、灰色の煙が立ち上っていた。
「リッターさん!」
中に入ろうとするリツを呼び止める声がした。
「ドラゴンキッド、どうしました」

ドラゴンキッドが駆け寄ってきてショッピングモールの奥を指さした。

「システムエラーでシャッターが閉じたまま避難用のドアも開かなくなっちゃったんだ。
中に人が取り残されてるみたいなんだけど、まだロックバイソンさんもタイガーさんたちも来てなくて……」

パワータイプではないドラゴンキッドやスカイハイだけでは無理なのだろう。
「わかりました。僕が行きます」

リツもパワータイプではないが、影を鋭く扱えば人が這出るスペースくらいは作れるだろう。
避難する人波に逆らいリツは走った。


防火シャッターの前に来れば、避難用の小さなドアがガタガタと動いていた。

「お待たせしました、ステルスリッターです。こじ開けますので離れて!」

助けて、と女性の声がした。

リツは能力を発動させ影を細く伸ばしてゆく。
見せ掛けの剣の刀身を作り出し、シャッターへ向けて振り抜いた。

二度、三度と角度を変えて切りつければガシャンと音を立ててシャッターの一部が落ちた。

「断面に気をつけて」

女性の手を取りこちら側へとエスコートする。

五人閉じ込められていたようで、全員が出てきたところでリツは他に取り残された人がいないか確認のため中に入った。

電気が消え暗い店内。

「誰かいませんか!」
声をかけながら、レジカウンターなどの物陰もチェックしながら歩く。

止まったエスカレーターをのぼれば、まだたくさんの人がいて、天井に空いた穴からはスカイハイが見えた。
ここから救助をしていたらしい。

リツも能力を発動させ黒馬を作り出し、スカイハイに倣い子供から抱えて外へと避難させてゆく。

天井の穴から出て地面に子供を下ろせば、バーナビーとワイルドタイガーも人を抱えて外に出てきた。
目にも止まらぬ速さで中に戻る。 ハンドレッドパワー発動中のようだった。

もう一度中に戻ろうとリツは黒馬に手をかけ宙に飛び上がった、瞬間。

「!」

映像が、重なった。

「スカイハイ!!」

リツは大声でスカイハイを呼ぶ。
が、銃声と共にスカイハイががくんとバランスを崩し降下した。
慌ててリツはスカイハイのそばに飛び、スカイハイの抱える子供を受け取った。

スカイハイはゆっくりと降りて行き、地上まであと1メートルという所で落ちた。

(どうして!)

多少違うところはあるものの、リツが街頭モニターで見た幻とほぼ同じことが起こった。

「大丈夫ですかスカイハイ!!」
子供を下ろし、慌ててスカイハイに駆け寄る。
ヒーロースーツに穴が開き、血が流れていた。

「大丈夫、だ。 リッター君は戻って……救助を……」

声をつまらせながらもスカイハイはリツに行けと促した。

「……わかりました」

ポセイドンラインのスタッフが駆け寄って来るのが見えた。
(……大丈夫。彼らが来ればすぐに病院に連れていってくれる)

リツはスカイハイの背を一度さすり、立ち上がり走り出した。
(どうして! どうして! あれはただの幻のはずなのに! どうして現実に起こるの!?)

動揺する気持ちを深呼吸をしてなだめ、もう一度黒馬を作り出し飛び乗り、またショッピングモールの中へと戻っていった。





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