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▼ 31

爆破予告を出した犯人は捕まらなかった。
そして、スカイハイを狙撃した犯人も。

これから先は警察の仕事だとヒーローは撤収した。


生放送はほんの少しのタイムラグを持って放送される。
プロデューサーのとっさの判断によりスカイハイが打たれた瞬間は流れなかったものの、
現場には大勢の人がおり、それに比例して目撃者の数も多く、
あっという間に一般人の撮影した動画や写真がネットに流れた。


負傷によりしばらくスカイハイのヒーロー業は休止となった。

「幸い貫通していたし、そこそこの距離から打たれたようで組織の破壊も少なかったそうだ。
太い血管も無事だったし直ぐに復帰できそうだよ」
「復帰については個人の感想ではなく医師の見立てを聞きたかったのですが……」

現場を片付け薄汚れたヒーロースーツを脱がないままメディカルセンターへと駆けつければ、
意外と元気そうなキースがベッドの上で「やあ」とステルスリッターを出迎えた。

「一晩入院して明日には帰れるそうだ」
「そうなんですか」
「しばらくは歩行の際に松葉杖を使わなくてはいけないらしいけどね」

すぐに退院できると聞き、安堵したリツは長く息を吐いてパイプ椅子に座り込んだ。

「良かった……」
「とても優秀な痛み止めだよ。全く痛くない!」
「それ、まだ局所麻酔が効いているだけでは」
「そうなのかい?」
「僕は処置を見ていないので分かりませんが」

スカイハイが撃たれることを予見した事を言うべきか。
もし話していたならスカイハイの怪我は回避できたかもしれない。
(いや、ただのまぐれかもしれないし……)

現に過去二度見たスカイハイとバーナビーの映像の出来事は起こっていない。

「リッター君?」
「……っは、はい」
考え込んでいて反応が遅れた。
「すまないが、ジョンの世話を頼んでもいいかい」
「はい」

結局言い出せず、リツの中にしこりが残ったまま会社に戻った。











「ねえジョン、どうしたらいいかなぁ」

ヒーロースーツを脱ぎ、会社に事情を説明してキースの家まで送ってもらった。
ジョンはキースが一緒じゃないことが不思議なのか、しきりにリツの後ろを気にしていた。

「今夜はキースは帰れないよ。 お散歩も私と行こうね」

サンポという単語に反応したのか、ジョンはフサフサのしっぽをブンブンと振り回す。

「ジョン、なんだか私おかしいみたい」

顔から肩にかけて撫でてやると嬉しいのか擦り寄ってきた。
「私は何を見てるのかなぁ……」

首輪にリードをつけて立ち上がれば、早く行こうとばかりにグイグイと引っ張られた。
「あっ、待ってよジョン! 鍵っ! 」



ジョンにリードされながら散歩に出る。
勝手知ったる様子でジョンはいつもの散歩コースを歩く。

(キースが退院してからも私が代わりにお散歩行かなきゃだよね)
松葉杖をつきながらジョンの散歩は厳しいだろう。

(夜のパトロールは……どうしよう)

スカイハイが毎晩行っているパトロール。
ヒーロー活動を休止しているのだから当然出来ない。

(私が代わりにパトロールしたとして……スカイハイの代わりになれるのかな)

スカイハイのような人気も、人望も、能力もリツにはない。
ひとりで小競り合いに突っ込んでいってやり込められてしまった日には、
きっと会社から大目玉を食らうだろう。

はぁ、とリツはため息をついた。

「ジョン、私疲れちゃった。 休憩しようよ」

仕方ないな、とでも言うようにジョンは振り向いて立ち止まった。


公園のベンチに腰掛ける。
ジョンは伏せをして行き交う人々を見ていた。
やけにカップルばかり目に付いて、リツは俯き目頭を揉んだ。

「ジョン、恋ってなんだろうねぇ」

犬に話しかけてみても明確な答えが帰ってくるはずもない。
わかっていてもリツは口に出さずにはいられなかった。

キースのことも悩ましい。
自分の気持ちもよくわからない。
バーナビーとキースの関係にも困っている。
スカイハイの撃たれることを予測してしまった。

問題は山積みで、どうしたものかとまたため息をついた。


重い体を引きずるようにしてキースの家に戻り、今度はジョンのご飯タイムだ。

ウェットフードの缶詰を開けフォークでほぐす。
キチッとお座りをして待つジョンの前に置けば、目をキラキラさせて「まだ? まだ?」と見上げてくる。

「よし」

許可を出せばジョンは皿に飛びついた。
その様子を写真に撮りキースへのメールに添付して送信した。

「あー……私もお腹空いたなぁ……」

帰ってから作るのも出動のあった今日は億劫だ。
既に眠気も感じている。

すべきことを終えて気が緩んでしまえば、ズシリと体の重みが増した気がした。

(……仮眠してから帰ろうかな )
ふ、とあくびを噛み殺してリツは自室のドアを開け、パタンとすぐに閉めた。

(……ソファで寝よう。)

頬が熱い。
キースが誕生日を祝ってくれた夜のことを思い出し、リツは手で顔を覆った。


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