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▼ 41 母、登場

リツが関係者用の入場証を取りに実家に戻れば家にはリツの母親がいた。

「おかえりリツ」
「ただいま、ママ。 パパから明日のイベントのパス預かってない?」

「リツ、パパの写真しまい込んだでしょ」
「あー、忘れてた。 友達と一緒だったからさ」
「パパ悲しんでたわよ」

悲しまれたとしても仕方の無いことだ。
まさかあの引退したヒーローが自分の父親です、なんて言えない。

「せめてパパがマスク脱がないままテレビに出てるならいーんだけどさぁ」

それでも特徴的なヒゲの問題があるが、マスクの分まだマシだ。
父親といい、ミスターレジェンドといい、ワイルドタイガーといい、なぜ男はヒゲで個性を出したがるのか。
まさかイワンもヒーローになったら変なヒゲにするんじゃ、と想像しかけて、慌ててリツはその考えを頭の隅に追いやった。


「ねぇねぇ、パソコンにデータ残ってたんだけど、このカッコイイ子だあれ!」

じゃん、とリツの母親はデジタルフォトフレームをリツの目の前に差し出した。

(やっべ)

家のパソコンに繋いでプリントした時にデータを消さずに帰ってしまったらしい。

「パパはパーティ見てたから知ってるみたいだけど」
「は!? パパ来てたの!? 見てないよ!?」

「リツに睨まれたくないから『ステルス』してたって言ってたわ」
にこ、とリツの母親は頬に手を当て微笑んだ。

(嘘だろ……親にイワンへの手にキスしたの見られたってこと……?)
リツは呆然と、壁に掛けてあるステルスソルジャーのポスターを見た。

「で、クリスマスイブのお相手のイケメンくんは誰なの?」
「イワン。 イワン・カレリン、同い年、性別は男」
「へぇ、それで?」
「能力は擬態」
「まあっ」
「成績優秀」
「素敵ねぇ〜」

リツの母親はうっとりとデジタルフォトフレームを見つめている。

「ヒーロー目指してるから応援してあげてよね」
「えっ、リツついにヒーロー目指すの?」
「イワンが、だよ」

すっとぼけた母親に思わずため息をつきそうになる。
リツは身を乗り出して画像の端を指さした。

「この赤毛の人もヒーローの有力候補だよ」
「えっ、どれどれどの子っ?」
「この人。 エドワード・ケディ、二つくらい年上だったかなぁ。
壁とか床とか砂にして潜って移動できるって」

「なにそれ、悪者に気付かれずに後ろ取れるじゃない」
「すごいっしょ?」

「すごいわねぇ……仲いいの?」
「カウントダウンイベントイワンとエドワードと行くくらいには仲いいよ」

ぴた、とリツの母親が止まった。

「……三人ってこのメンバー?」
「うん。」
「パパは……」
「多分女の子と行くと思ってるんじゃないかなぁ」
「リツ……、どっちが彼氏?」
「金髪の方」

リツの母親は親指を立てた。
「ぐっじょぶ!」
「……ドーモ」
イワンの容姿はバッチリリツの母親の心を掴んだようだった。

「こっちのエドワードくん、だっけ。 彼もちょっぴりワイルドな感じで素敵だけどねぇ。イワンくんって美人さんねぇ!
将来が楽しみだわぁ……ねぇ、うちに連れてきてよ!」
「まあ、そのうちね」

そのうち。
(ママはともかくパパはめんどくさそうだな……)
適当にはぐらかしておこう、とリツは決めた。


「はいこれ、入場証」
「ありがとう」
母親から受け取った入場証は女神の意匠を凝らしたイラストとアポロンメディアのマークが印刷されておりオレンジのネックストラップがついている。
裏返せばGuests of the stealth-soldierと手書きで書かれていた。

「無くさないようにね」
「それくらいわかってるー」
「明日はママもパパもイベントの後はパーティで会場のホテルに泊まるから帰ってきてもいないわよ。
そのまま旅行行くから」
「はいよー」

「お兄ちゃんは仕事で年始も帰らないって」
「はいはい」
「次はいつ帰ってくるの?」
「わかんなーい」

入場証さえ手に入れば後は用はない。
家にいるよりもイワンたちがいる寮にいた方が楽しいのだ。
買い物をしてから戻ろう、とリツの意識は既に違うところへ向いていた。

「パパもリツに会いたーいって言ってたわよ」
「明日会うじゃん」
「ちょっとの間でしょ」

いつまでも小さい子供扱いしてくる父親の相手は少々面倒だった。


「でも楽しそうでよかったわ」
「何が?」
「ヒーローアカデミー。 リツさんざん渋ってたじゃない。 行きたくないー嫌だー、おばあちゃんちに残るーって。」
「……だっていきなり海外の学校通えって……しかも普通の学校じゃなくてヒーローの学校だって言うし」

リツの母親はパチンとウインクした。

「でも、入学して良かったでしょ?」
「……うん」

嫌で仕方がなかったヒーローアカデミーの寮生活もなんだかんだ毎日楽しい。
ハンナもエドワードも、何よりイワンがいる。

彼らと、彼らと過ごす毎日を思えば自然にリツの口角が上がった。



おまけ






「ただいまリツ! あけましておめでとう! 見たかパパの有志!」
「おかえり。 中継は見てたけど……だいたいパパ能力発動したら消えちゃうじゃん。 画面から。」
「それでもしっかり確保しただろう」
「別のヒーローがね」
「サポートしてやるのだって大事な仕事なんだよ!」
「はいはいソーデスネ」

「ママー! リツが反抗期だ!」
「ちょっと静かにしてよー宿題やってるんだからさー」

「リツ……パパ悲しい……」
「パパの能力ってヒーローっていうかスパイとかの裏方向きだよね」
「す、ステルスだってカッコイイだろ……?」
「ウンウンソウダネ」
「お前の能力もスパイ向きだし、やっぱパパの子だよなー!」
「つまりヒーロー向きじゃないってことだね」
「……なぁ、パパなんかした?」




(小学生の時のリツの冬休みに母親と父の元へ遊びに行った時のひとコマ)

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