▼ 甘くてほろ苦いオトナ味
言葉が出ないというのはまさにこのことだろう。
リツさんのマンションは何から何まですごいの一言に尽きる。
「どうぞ」
リツさんに続いて靴を脱ぐ。
つややかな板張りの廊下を進めば、中は洋風と和風が混在していた。
「ご飯食べてく時間はある?」
図々しいかもしれないが、はい。と答えようとしたところでPDAの呼出音が響いた。
「あ……ちょっとすみません」
廊下に出て応えれば出動要請だった。
タイミングが悪い。
部屋に戻りリツさんに謝る。
「すみません、職場に戻らないといけなくなってしまいました」
できれば戻ってきてリツのご飯を食べたいが、何時間も待たせるのは気が引ける。
「そっか、イワンくん忙しいんだね」
そして紙袋を手渡された。
「抹茶プリンと柚子のマフィンだよ。持ってくのは大丈夫?」
「!」
ご飯はダメだったがお土産をもらえるとは。
下まで見送ってもらい、すぐ近くの会社まで走った。
自分でも笑ってしまうくらい足取りが軽かった。
オマケ
「なんか折紙テンション高くねえ?」
「他人のことよりヘマしないよう気をつけてくださいよ、おじさん」
「今日は見切れるだけの拙者じゃないでござるよ!!」
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