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▼ 28

結局、スカイハイとバーナビー・ブルックスJr.二人の手を借りてトランスポーターに乗り込んだ。

バーナビー・ブルックスJr.には素顔がバレているので遠慮なくヘルメットを外す。


「おや、リツ化粧しているのかい?」

「うん、ちょっと出掛けてたから」

「僕の家で飲んでたんですよ」

バーナビーの言葉にキースの動きがピタリと止まる。

「あ、虎徹さんも一緒だよ」
急いでフォローを入れるも、なんとなくキースの方を見れずに視線が泳ぐ。
別にキースと付き合っている訳では無い。
けれどもリツは浮気をしてしまったような、後ろめたい気持ちになってしまった。

「今まで知らないリツを知ることが出来て嬉しかったですよ」

バーナビーはニコリと笑うと指を絡ませてきた。暴走させた時のことを示しているのだろう。

「……」
真顔で無言のままキースはバーナビーを見つめる。
(こ、こわい……!)

「な、なんのことだか……はは……」
そっとバーナビーの指をほどき手を押し返す。

無言のままキースはステルスリッターのヒーロースーツの首の後ろをまさぐりヒーロースーツを緩め、少しずつ脱皮するかのように背が割れていく。

「あの、バーナビー、あっち向いてて欲しいんですけど」

「どうし……はい、わかりました」
(じゃないとアンダースーツ脱げないよ)

キースは慣れた手つきで腰まで緩めていく。
生体センサーの妨げになるので下着はつけないのである。

「ねえ、後は自分で出来るから」
「そうかい? ほら汗で肌とくっついてしまっているよ。一人で脱ぐのは大変だろう?」

キースはリツを抱き上げるといつも着替えをするカーテンの仕切りの中へ運んでくれた。

「ここならバーナビー君から見えないし大丈夫だ」
「いやそういう問題ではなくて」

「大丈夫。リツの体はもう見ーー」

「サポーターの人に頼むからいいってばぁあっ!」
キースの不埒な物言いに思わず影が出た。














「リツまた明日」

トランスポーターに置いてある予備の私服に着替え、バーナビーを見送る。

顔が近づいてきたかと思うと、するりと耳をなでられた。

「次を楽しみにしています」

(次。 ピアスのホールが完成したあたり、かな)

ハンサムな笑顔を無駄打ちし、バーナビーはトランスポーターから出て行った。

「リツ、ピアス開けたのかい?」

「うん、バーナビーにあけてもらったの」

耳たぶを触りピアスの存在を確かめる。金色のファーストピアス。

キースがそれを見て顔をしかめた。

「リツはずいぶんとバーナビー君と仲がいいね」

(いやいや、どちらかと言うと虎徹さんに相談したくてお邪魔したのであって、バーナビーはなんというか……)

スカイハイがリツの耳たぶをつまむ。

「他の男に開けられるとはね」

そのままキースの顔が近づいてきて、リツがよけようとした時には頭を掴まれて逃げられず唇と唇がくっついてしまった。

「んんー!」

耳に指が差し込まれる。くしゅくしゅといじられぞくりと変な感じがした。
抗議の声を発しようとしたその隙にわずかに開いた口の中にキースの舌が入ってきた。

ーー気持ちいい。

暖かくて柔らかくて。
やめてくれと抗議するはずが押し寄せる快楽に負け力が抜ける。

(気持ちいい。 どうしよう……)


ゆっくりと離れ、名残惜しげにもう一度唇を合わせるだけのキスをして離れた。

無言。
やってしまった、と気まずさでキースの顔をまともに見れず、リツは床に視線を落とす。

「もー。だからこーゆー事はしないって言ったでしょ」
「いいじゃないか。 私はリツとしたいよ」

自分の気持ちはどうなるのだと思いながら、リツは何も言えなかった。

「リツ」
今度はリツの頬に口付ける。

「私はね、あまり、その……こういう事に疎いというか、バーナビー君のようにスマートではないと思う」

簡単に手を出したくせに疎いわけあるかとも思ったが、口喧嘩に発展させるほどの元気はなくリツは眉を寄せるだけにした。

「今まで気づかなかったけれど、私は結構嫉妬深いみたいだ」

キースはそのままリツを抱きしめた。
「バーナビー君はリツに興味があるみたいだけれど、リツは私のところにいてくれるよね?」

ね、とうつむいたリツの顔をキースは覗き込む。
真っ赤になった顔を見られたくなくてリツはキースから逃げようとキースの額を押し返した。

「か、帰るよキース!」
「返事をもらっていないよリツ。 バーナビー君じゃなく、私を選んで欲しい」

「いやいやいや、そもそも選ぶとかそういう問題じゃないしバーナビーとは誤解だし……
キースとは相棒って意味で一緒だよこれからもっ」

「もちろんだ。私とリツはコンビだからね。公私ともに君の一番になりたいんだ」
「プライベートでも一番はキースだよ。 友人としてキースのことは大切に思ってる」

キースはなおも逃げようとするリツの手首と顎をつかみ無理やり正面を向かせた。

「う……あの、か、帰ろうよ」
「私の部屋に帰ろうリツ」

帰ろう、とキースは微笑む。 リツは唇を噛み一度はあった視線をそらす。
とてもじゃないが正面からは向き合えない。

「キース、ごめん……私は自分のうちに帰る」

甘やかな声に精一杯抗う。
離れたばかりの頃は、どうしたらまたキースの所に戻れるか、どうしたら女としてみてもらえるかばかり考えていたというのに。

今はどうしたら恋愛関係にならないようヒーローとして一緒にいられるかばかり考えている。

真逆だ、とリツはどこか冷静に考えていた。

「私たちは、コンビなんだよ」

今縋ってその後関係が終わってしまったら、今度はヒーローとして一緒に居ること自体できなくなってしまうかもしれない。

「リツ……」

リツはキースの手を振りほどき、急いでトランスポーターを出た。





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