のべる | ナノ


▼ 34 交際日数一日未満で終了の危機

事情聴取と怪我の手当の後、イワンとリツはパトカーでアカデミーまで送ってもらった。

パトカーの中でもイワンは終始沈んだ表情のままで、リツはなんと声をかけようかとチラチライワンの方を伺うも適切な言葉が思い浮かばずほとんど無言だった。

ヒーローアカデミーに到着した時にはすっかり暗くなり、寮の夕食の時間が始まっていた。

「なんか疲れちゃったね」
「……うん」
「先に荷物部屋に置いてくるね」
「うん。」

じゃあ、とリツとイワンは寮の入口で別れた。

(…………今度は何がどうしたんだろ)

リツは自宅から持ってきた服をしまい、イワンに貸すためにポータブルDVDプレイヤーを取り出し、一応壊れていないかどうか確認のため電源を入れた。

ウェイクアップ音とともに画面にメーカーのロゴが浮き上がる。

「言ってくれればいいのに」
いくら付き合い始めたといえど、イワンの性格からして何でも他人に言う、相談をするというのは本人的にハードルが高いのかもしれない。

(ま、まさか……強盗相手にして引かれた!?)

さぁっとリツから血の気が引いてゆく。

『授業とは違うのにっ』

イワンの言葉がリツの頭の中にこだました。

「…………あは……まさかね……」

引かれるのならば、対人格闘の授業でイワンのことを投げ飛ばしている時点でとっくにドン引き案件だ。

ポータブルDVDプレイヤーの電源を落とす。

(聞けばいいじゃんね。)
付き合い始めたばかりでしこりを残すのは良くない。
そう結論づけリツは食堂へと向かった。





『ごめん、食欲ないから食べてて』
「……」

リツは無言で携帯電話を閉じた。
(逃げられた!)

食堂につくなりメールの着信を知らせる振動とランプが点いた。
確認すれば簡潔な一文。

(まさかの交際日数一日未満で終了の危機……?)

リツはため息をついてカウンターで夕食を受け取った。

「リツ、イワンは?」
「あー、部屋にいるんじゃない」
振り向けば、ケーキの皿を持つエドワードがいた。

「エドワードこそ、彼女は一緒じゃないの」
「……言ったろ、パーティ直前にペア解消したって」

エドワードは乾いた笑いを漏らした。
「え? パーティに限らず関係ごと解消だったの?」
「言わないでくれよ……引きずってんだからよ……」

ごめーん、とリツは曖昧に笑って濁す。
エドワードについて行き同じテーブルにトレイを置いた。

「で、今日はどうだった?」
「……クリスマスのディナーをひとりで食べようとしてた女子にそれ言う?」

リツはいただきます、と手を合わせシチューにスプーンを沈めた。

「え、まじ?」
「まじ。」
「イワンと出かけたんだろ?」
「うん 」
「クリスマスに男女が二人で出掛けて……ケンカ?」
「喧嘩よりもっと悪い」

エドワードは目をしばたかせた。

「何があったんだよ」
「……こっちが聞きたいわ」

ソテーされたチキンをぐさりと刺しリツはため息をついた。

「強盗事件に巻き込まれるまでは幸せでしたーまる。」
「ーーは?」
「イワンとね、付き合うことになった」
「お、おう……おめでとう」
「休みの日限定で」
「なんでだよ」

いろいろあるんだよ、とリツはチキンを咀嚼する。

「あ、付き合うことになったってのはほかの人に言わないでね。 またややこしいことになったら困るし」
「おう」
「それでね、帰りに銀行寄ったら人質にされまして」
「そりゃ……濃い一日だったな」
「なんかそっからイワンの様子が変なんだよねぇ」

ぐさ、と今度は付け合せの人参にフォークを突き立てた。

「だってさ、人質に取られてさ、こう、ナイフ当てられて……一番近くのヒーローはロックバイソンだよ? 何かしようとヒーローが動いたら私の首はスッパリだよ?
なんとかしようと思うじゃないですかっ」
「あ、その包帯はそれか」
「うん。 くい込んでて強盗の手が震えながら歩かされたらそりゃ切れるよね。
だから自力で強盗ボコって逃げたんだけど」
「ちょっと待て」

エドワードが待ったをかけた。

「強盗ボコった?」
「ちょっとだけだよ。 放して貰うためにちょっとだけ」
「危ねー……」
「ナイフ首に押し当てられたままヒーロースーツ2m超えのロックバイソンが襲いかかってくるほうが危ないでしょどう考えても」

エドワードはこめかみを抑えた。
そんなハラハラする場面を至近距離で目撃したであろうイワンに心底同情した。

「あ、そうだエドワード、これイワンに渡しといて。 貸す約束してたんだ」

これ、とリツはポータブルDVDプレイヤーをテーブルに置き、エドワード側にずず、と押した。
「まあ、銀行の一件でドン引きされたぽくて。 きっとイワンからメールが来て開いたら別れ話とかそんなパターンなんだよう……」

笑えない。
笑えないが笑うしかなかった。

「考えすぎじゃねーの」
「だといいんですけどねぇあはは……」

リツは両手で顔を覆い泣き真似をした。
「ま、まあ、部屋戻ったらそれと無く聞いてみるからよ、元気だせって。
あ、ケーキ持ってきてやるよ、食べるだろ?」
「……たべる」

失恋しかけても、リツの食欲は落ちなかった。



prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -