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「じゃあ行きますよ」
「うー……よろしくお願いします」
緊張からかぴん、と背筋を伸ばし座っているリツの耳たぶに手を添えた。
バーナビーはかがんでリツの小さい耳をまじまじと見る。
(この耳を食んだらリツさんはどんな反応をするかな)
煩悩とともにカチ、とピアッサーを押す。
「出来ましたよ」
鏡を渡すと、おお、と、感嘆の声を漏らし耳たぶをつまみ鏡に映して見ていた。
「もう片方も行きますよ」
「は、はい、おねがいします!」
同じ要領でもう片方にもカチ、とピアスを開けた。
「シャワー浴びる時などに軽く動かしながら洗ってくださいね」
「うん。ありがとうバーナビー」
にこり、と笑みが眩しい。
今、リツの耳にはバーナビーが開けた穴があいていて、アレルギー防止のためにゴールドのピアスがつけられている。先端にはくすんだグリーンの石がはまっている。
小さな征服感。
本人は気づいていないだろうが、スカイハイが見たなら、気づいたらきっと……
恋敵に対する優越感。バーナビーの口角が上がった。
「一ヶ月くらいで他のに付け替えてもいいんですよね」
「ええ。その頃ホールが完成しているか見てあげますよ 」
「ありがとうございます。じゃあその時今日いただいたピアスつけますね!」
屈託のない笑顔が眩しい。
ーーこれでいい。少しずつ、少しずつこちらに引き寄せて、彼を牽制して。
(最後は彼女を必ず手に入れる。)
*
「いやー、一時はどうなるかと思ったぜ!」
「ご迷惑をおかけしました」
ピアスを開けたあたりで手を離しても影が揺らぐことはなくなった。
「リツちゃんネクストだったんだな」
「え、ええ。はい、まあ……」
この人は気づかないのだろうか。
ステルスリッターと同じ能力なのに。
鈍感にも程があるが、虎徹らしいといえば虎徹らしいなとリツは思った。
「知りませんでした。リツさんの能力が体に触れられていると発動しなくなるなんて」
「今は上とキースしか知らないかな。キースは最近知ったんだけど……虎徹さんもバーナビーも内緒にしてくださいね」
「おう」
「わかりました」
二人がうなづき、リツは安心した。
これはリツの弱点でもある。 つまり素手でむき出しの首を締められたりしたら一貫の終わりだ。
振りほどけるほどの腕力があればいいのだが、リツの筋細胞にも限界がある。
だからこそ、ステルスリッターのヒーロースーツは一分の隙間もなく体を覆う構造になっているのだ。
「!」
虎徹さんとバーナビーのPDAから呼出音が鳴った。
(あっ……洗い物をする時に外してポケットに入れたまま……)
『ボンジュー・ヒーロー
シュテルンメダイユイーストブロンズでネクストが暴れているわ。建物への被害も確認されてる。ネクストの能力についてはわかり次第連絡するわ。至急現場にGO!!』
「あー、ごめんなリツちゃん! 仕事入ったわ」
「じゃあ私も帰りますね。 バーナビー、虎徹さんお気を付けて」
「リツ、下まで送ります。」
バタバタと準備をして部屋を出た。
「また……明日。リツも気をつけて」
バーナビーはリツの耳たぶをーーピアスにそっと触れそのままするりと首筋をなでた。
「!?」
びくりとリツの身が震えた。バーナビーは手を振りマンションの裏手に待機していたトランスポーターに乗り込んだ。
自分もぼーっとしていられないと、ポケットからPDAを取り出し手首に装着したとたん、プロデューサーの声が大音量で響いた。
「ちょっとリッター!! アンタやる気あんの!?」
「すみません、内容はわかってます。 今から現場に向かいます」
一方的に切断すると今度はポセイドンラインから連絡が入った。
「あ、すみません、今ゴールドの……はい。じゃあそこで合流します」
合流場所へ向けて走る。
はき慣れないヒールは走りづらい。
女の子らしい格好をする時も走る時のことを考えてフラットなパンプスにするべきかもしれない。
ガツガツとヒールの音を立てながら迎えに来たトランスポーターに乗り込んだ。
オマケ
「洗い物手伝います!」
「お、ありがとなー……ピアス開けてもらったのか」
「はい!似合います?」
「お、おー、似合ってるぜ!」
(この緑と金って……これバニーちゃんの色じゃねーか……
バニーちゃん狙いすぎだろ……)
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