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「リツ、しっかりしてください!」
リツの影がどんどん大きくなる。
本人はぼうっとしていて、目は開いているが様子がおかしい。
青く光り、その周りを赤い光がふちどっている。
「だっ! リツちゃんネクストだったのか!?
能力ダダ漏れじゃねーか!おいリツちゃん!?しっかりしろ!」
「リツ!」
バーナビーはリツの肩をつかんで揺さぶるとリツの眦から涙がこぼれた。
どろり、どろりとゆっくりと確実に影は部屋を埋め尽くしていく。
「泣かないでくださいよ」
バーナビーはリツの涙を指ですくった。
「僕がついてますから」
ふっくりと柔らかい頬を手のひらで包む。
はっと、リツが目を見開く。
リツとバーナビーの目が合った。
「あれ、私今何を……」
バーナビーに触れられ、ぱっと影は消えてしまった。
「大丈夫ですかリツ、今影が」
頬を包んでいた手を離すと、リツはバーナビーの手を掴んだ。
「離さないで!」
「え」
「え゛? リツちゃん?」
「ぼ、ぼうそうさせてしまいました、よね?」
「ええ、そのようです」
バーナビーの手を握ったままリツはキョロキョロと周りを見て物理的な被害がないことに安堵のため息をついた。
「しばらくこのままでお願いします……」
うつむいたままぽつりというリツをバーナビーは思わず抱きしめた。
「あっれ、おじさんもしかしておじゃま虫?」
「ちょっ、バーナビーさん、そこまではお願いしてないです」
そっとリツはバーナビーの胸を押し返す。
「え?」
もう一度リツはバーナビーの手をとり、気まずそうに言った。
「あの、私肌に触れられていると能力使えなくなるので……
今離すとたぶんまた暴走させてしまいそうなので、このままでお願いします」
「あ、ああ、そゆことね。おじさん今盛大に勘違いしそうになったよ……ドンマイばにーちゃん」
「……ちょっとおじさんは黙っていてください」
(おじさんは一言も二言も多いんですよ!)
バーナビーは虎徹を睨めつけると、虎徹は慌ててキッチンへと消えた。
*
「おいしーい!」
「だろ?おじさんがんばっちゃったー!」
結局、あれから何度か手を離してみたがリツの影が波打ってしまうのでそれ以上暴走しないようにとバーナビーとリツは手を握ったまま食事をしていた。
「虎徹さんに料理習おうかな」
「チャーハンならビシバシ鍛えちゃうよ!」
虎徹がフライパンを振る真似をして力こぶを見せていた。
柔らかくて小さな手。
手をつないだまま飲むなんてまるで恋人になったようだとバーナビーの口角が自然と上がる。
この手ならばヒーローとしてはずっと手袋をはめていなければすぐ女性だとわかってしまうだろう。
(……柔らかいな)
一瞬だけリツを抱きしめた感触を思い出す。
ふわりといい匂いがした。甘ったるいむせかえるような香水ではなく、いつまでも嗅いでいたい香り。
悪辣な欲望がふつふつと湧き上がる。
いや流石にそれはダメだと思いを打ち消す。
「んでリツちゃん、キースとはどうなってんの?」
「!」
はっとバーナビーはリツを見る。
「あー、えーと……」
リツの唇を見つめ次の言葉を待てば、困ったようにへらりと笑った。
「なんか、よくわからないことに……」
*
「だっ! 昨日そんな事になってたのかよ……」
「はは……すいません下世話な話を……」
平静な表情を貼り付けてバーナビーは内心頭を抱えた。
だいぶ濁して濁して濁しまくり直接的な表現を避けて話してはいたが、濁して濁して濁しまくていてもその言葉の裏を読み取ればつまりはそういう事で。
まさかそんなことになっていようとは。
スカイハイならそこまで手出しはしないだろうと思っていたが、目論見があまかったとバーナビーは唇を噛む。
「あー、もうあれだ、諦めてくっついちまえ」
バーナビーは虎徹を睨めつけた。セックスしたからと言って結婚なんてされたらリツを諦めなくてはいけない。冗談じゃないとバーナビーは虎徹を睨む。
濁しまくった結果、そうじゃないといいのに、自分の解釈が間違っていれば、とバーナビーは思う。
濁してもやはり話すべきではなかった、とリツは頬を赤らめうつむいた。
オマケ
「あ、バーナビー、そろそろ手を離してもだいじょうぶです」
「……まだダメです。念のためもう少しこのままで」
「じゃー俺代わろうか」
「絶対ダメです!」
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