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▼ 初夢で嫌な過去を見てしまった折紙

「ヒーロー目指さないイワンならお断りだね!」

リツはイワンの胸ぐらを掴んでそう言い放った。
ヒーローを目指してアカデミーに入った。
ヒーローになりたい。ずっとヒーローに憧れていた。
けれども入学してすぐ、現実がイワンの前に立ちはだかった。

自分よりすごいネクストなんて沢山いるし、好きになった女の子はヒーロー目指す人は恋愛対象外なんて言う。


世界がくるりと周り、場面が切り替わった。


「ヒーロー内定おめでとう」

(ちがう。
本当はエドワードがヒーローになるんだ。なるはずだったんだ)

おめでとう、と笑うリツの顔を直視できなくて、イワンはリツの足ばかりを見つめる。


「じゃあねイワン。 デビュー楽しみにしてる」


リツに言いたいことが沢山あるのに。
けれどもそれらすべてが様々な感情と複雑に絡み合って、一つも伝えることが出来なかった。


遠ざかる背中を、イワンは呆然と見送った。

「リツ……」

行かないで。
離れないでよ。
エドワードもリツも僕の手の届かないところに行ってしまっーーーー






「ーーーーーーっ!!!!」

飛び起きた。

ドクドクと心臓が早鐘をうち、肩で息をする。
まるで全力でシュテルンビルトを駆け回った後のような疲労感がズシリとイワンの体を苛んだ。

口を開け少しでも酸素を取り込もうとすれば喉がヒリヒリと痛み、
寝巻きの前を掻き寄せ胸を抑えてゆっくりと息をととのえる。
こめかみから一筋汗が流れた。

(昔の、夢……)


十代の頃の夢。
ヒーローアカデミーに入り、エドワードとリツに出会った頃の夢。

一緒にヒーローになろうと語り合ったのに、エドワードが逮捕されてイワンだけがヒーローになった。

卒業してからはリツにも会わず、
エドワードに会いに行くことも怖くて出来なかった。

「…………」
真っ暗で明かりのない室内。
イワンは枕を持ち上げ、プリントアウトした絵をクシャクシャに丸めて転がした。

初夢がこれなんて縁起が悪すぎる。


充電器につないだスマートホンに手を伸ばし、メールを打つ。

送信してパタリと布団の上に倒れ込んだ。

「!」

すぐに控えめなバイブレーションが電話の着信を告げた。

「もしも『今仕事中。 何? 出動?』 ち、違うけど、その……『何? 簡潔に。 今仕事中』あ……ごめん……」

仕事モードのリツはピリピリしている。
仕事中に電話に出てくれること自体奇跡でもある。

「ごめん、声聞きたくなって」
『仕事中』
「ごめん……」
『……どうせ嫌な夢でも見たんでしょ。今そばにはいけないけど、交代したらすぐ帰るから』

「うん。」
言わなくても察してくれる。
『お餅はクルミダレでよろしく』
「うん。」
『初詣にも行くんだからね。 エドワードとやっと休み合わせたんだから。
イワンは出動かかんないように祈りながら寝てて』
「うん。」
『イワンが出動かかると私とエドワードのデートになっちゃうんだから』
「それは……」

いくら親友でもそれは嫌だ。
だから、とリツは続けた。
『今……3時かぁ。しっかり寝て。ホントに寝て。 明日眠そうな顔してたらしばらく子供の姿から戻んないからね』
「え……それは困るんだけど」

『落ち着いた?』
くす、と電話の向こうから笑い声が聞こえた。
気づけば心臓の速さはすっかり元に戻っていて。

『あー、もう、集中切れた。 お休みイワン、良い初夢を』
「うん、ありがとう。仕事頑張ってね」


ぷつりと切れた通話。

たくさんの事があってまたこうして三人で笑い合える。
十代の頃の自分たちは、きっとこうなるなんて予想出来ないだろう。

イワンは布団をかぶりスマホのアルバムを開いた。

坊主頭のエドワード、少し髪の伸びたエドワードにレモンを勝手に絞ったと怒るリツ。

びし、とスーツを着込みリツの運転する車に乗ったエドワード、

三人でアカデミーのOB会に行った時の写真。

アカデミーでは同じくらいの身長だったリツも、今の三人の中では一番小さい。

スライドさせて次々画像を表示させていく。

(大丈夫、もう一人じゃない)

夢の中の、昔の自分に出会えたなら、大丈夫だよと声をかけよう。

イワンはクシャクシャに丸めた紙を手探りで見つけ、シワを伸ばしてまた枕の下に忍ばせて目を瞑った。



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