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「最悪だ……」

「大丈夫? リッターさん」

ドリンク片手にトレーニングセンターで項垂れる。
少しシュールだが、ヘルメットを着用したまま水分補給ができるよう改造してもらった。
ストローが入るようになっただけではあるが、それだけでもだいぶ楽になった。

「大丈夫ですよドラゴンキッド。 ありがとう」

スポンサーを増やすための営業後、ヒーロースーツそのままでリツはトレーニングセンターに逃げ込んだ。

なんだかトレーニングセンターに逃げ込むことが多くなった気がする。会社ではキースも一緒だからなんとなく気を張ってしまうのだ。

今日は取材があるらしくキースは来ない。
さすがはキングオブヒーロー、メディアの仕事はかなりの数だ。

(せっかく元通りの関係に戻れたと思ったのに)
ある意味前進しているが方向が斜め過ぎてはっきりいってリツは困っていた。

「なんだ二日酔いかよリッター」

遅れてやってきたアポロンメディアのコンビが寄ってくる。

「あ、おつかれさまです……」
「おつかれさまです、リッター」

二日酔いではない。朝からネクスト能力を暴走させてしまい消耗しているのだ。それと精神的にも。

「リッター、少しお話が」

美容院には二週間に一回行く方、バーナビー・ブルックスJr.に呼ばれロッカールームに行く。



「スカイハイさんとなにかありました?」
「はは……バーナビー流石の観察力ですね……」

なんなんだろうこの人。人の心を読むネクスト能力でも目覚めてしまったのだろうかとリツはヘルメット越しにバーナビーの顔をまじまじと見た。

「恋人のフリ、考えてもらえました?」
「あ、あー……お願いしたいけど事態が悪化しそうなので」

「でも、このままでいいんですか?」

このままで。
このまま流されてキースの恋人に。

一時は幸せかもしれない。
昨夜だって自分は本気で、全力で抵抗しただろうか。
もしかしたらほんの少し手を抜いてはいなかったか。

アルコールと、能力が発動できないという理由にして一切の甘えがなかったと言えるか。

そこまで考えてめまいを覚えた。
(自分の自業自得なのかもしれない……)

「そうだ、今日うちに来ませんか?」
「え?」
「虎徹さんも来るんです。 スカイハイさんとの事情知っているんでしょう?
飲みながら吐き出した方が楽になりますよ。
それに、虎徹さんがご飯作ってくれるそうです」

(虎徹さんのご飯)
リツは一度朝食にとチャーハンをご馳走になったことがある。
美味しかったな、とあの朝を思い出せは話芋づる式にキースの顔まで浮かんで来た。

(だめだ忘れよう)
「じゃあお邪魔しようかな……」














「お待たせしましたー」
「いえ、今着いたところですよ」

迎えに来てくれるというバーナビーの言葉に甘えて一度家に帰り着替えてから行くことにした。
家の前に止められた高級車にたじろぎながらもリツは車に乗り込んだ。

「可愛いですね」
「え? いやまさか」

バーナビーはくすりと笑うと車を出した。

「そうそう、これ貴女に」

バーナビーは前見向いたまま小さな箱をリツの膝にぽんと置いた。

「あけても?」
バーナビーブルックスか頷いたので開けてみれば可愛いピアスだった。

「わあ! 可愛い……ありがとうございます!
ほんとにもらってもいいんですか?」

「リツに似合うかと思って。返されても困りますよ」

「あ、でも私穴あいてなくて……」

「リツさえ良ければあけて差し上げますよ」

ピアス。高校生の時に開けたかったけれど、厳しい先生がいたせいで結局あけないままこの年になった。
テストの点、内申と先生の心証が何より大切だった。

卒業してからも忙しさにかまけて開けている暇もなかった。

これを機に開けてもいいかもしれない。

「じゃあお願いしてもいいですか」

バーナビーは微笑みよろこんで、と応えた。

テスト、内申、卒業。
こちらに来てからあちらのことをあまり思い出さなくなったな、とリツは思った。
(……あれ?)

家族のこと、友達のこと。

思い出そうとすれば知っているはずの姿にモヤのようなものが邪魔をして見えない。

(……疲れてるのかな)
脳みそが現実逃避をしているつもりなのかもしれないな、とリツはピアスを見つめながら思った。

こちらもまた、まぎれもない現実だというのに。











「よーう!遅かったな!」

バーナビーの部屋には既に虎徹が来ていて、ふわりといい匂いが漂っていた。

「今日は唐揚げ、枝豆、チャーハン、ギョーザでっす! リツちゃんのデザートは手作りプリンだぜー!」

「すごいですね、手作り……!」

「おじさん腕によりをかけちゃいました!」

エプロンをつけて菜箸を持ったままピースをする。

「まだ揚がってないから待っててなー」


バーナビーに促されるまま部屋の中に歩みを進めた。
「座っていてください。 今から開けても大丈夫ですか?」

「あ、うん。お願いします」

バーナビーは別の部屋からピアッサーを持ってきた。

「なんだか緊張するな……」
「え?」

するり、と耳を撫でられる。

「こんな可愛らしい耳に穴を開けるなんて」

「はは、こんなのどこにでも転がっている耳ですよ」

バーナビーのファンなら黄色い声が上がりそうだ。

綺麗な顔が至近距離で微笑む。
ドクリ、ドクリと心臓の音が大きくなった。

「初めはファーストピアスなんですが……今この色しかなくて。これでもいいですか?」


バーナビーの声が飲み込まれてしまうほどリツの中で心臓の音が大きくなった。

今朝と同じようにバーナビーの姿が二重に見えた。
「リツ?」

『どうしてあなたが!!』
ピアスについて返答を待つバーナビーと
傷ついたような顔のバーナビーがずれて見えた。

『馬鹿な……』
重なる幻の中で、黒く細く裂けた影がバーナビーの首に巻きついた。

「あの、リツ?」

(なんなの、これ!!)

ぼこり、とリツの足元から黒い影が溢れた。

「リツ!?」
「どうしたバニー!」






オマケ

「虎徹さん、僕のプリンはないんですか?」

「はぁ!?ヤローにんなもんねーよ!リツちゅわんだけ!」

「虎徹さん、声同じですがキャラクターが違うようです」

「はっ!?俺は一体何を!?」


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