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▼ 初夢の続きが幸せな空

「ジョン! 待つんだジョン! 君っ危ない!!」

はしゃぐ犬の息遣いと慌てた飼い主の声。

『君』の指す人物がまさか自分だとは思わず、リツは振り返らなかった。

「こらっ! ああっ 」

『君』が自分を指していたのだと自覚した時にはもう既に遅く、リツはぐらりと傾ぐ体と視界いっぱいに広がるコンクリートブロックの地面を見て「厄日だ」と心の中でつぶやいた。





「リツ」

耳慣れた声が名前を呼び、意識が浮上する。

「おはよう」
「……なんだキースか」
「誰ならよかったんだい」
「意地悪言わないでよ」

ボーッと覚醒し切らない頭で、そうかあれは夢だったか、と理解した。

頭にぐり、と腕を押し付けられ、リツは頭を上げた。
キースの腕が頭の下に差し込まれ、満足そうに本人は笑みを作った。

「……夢に」
「ん?」

「夢にキースが出てきたの」
「初夢、というやつかい?」
「んー、キースとジョンと出会った時のことだったの」
「ああ、見事なたんこぶを作った時だね」
「……顔から倒れたから彼氏にDV受けてるんじゃないかって言われて大変だった」

「DVだなんて! 私はこんなにも君を愛しているのに!」
キースはリツの頬に、額に、まぶたにとあちこちにキスを落としてゆく。

「弁解すればするほど泥沼にはまって面白かった」
「面白いのは君だけさ。 まさか病院で通報されるとは思わなかったよ」

はぁ、とキースはため息をついた。

『転んだだけです、彼は病院まで付き添ってくれて優しい人なんです、私が転んだだけなんです、本当です』

『す、すまない! 女性なのに顔にこんな! 彼女を傷つけるつもりは無くて、ああどうしよう許して欲しい……いや、そんなことを言う資格は私にはないね……本当に怪我をさせるつもりはーー』

当時のキースの慌てようをありありと思い出してリツは吹き出した。

「でも……こうしてキースに出会えたから、ジョンはキューピッドね」
あたたかいキースの胸元にすり寄れば、髪の中に手を差し込まれ撫でられた。


「君の夢の続きは、幸せかい?」
「もちろん、幸せ」

出会いは酷いものだった。
けれどもそれからのこと、こうして一緒のベッドで朝を迎えることができるようになった今は、そんな出会い方も悪くないな、とリツは思うのだった。



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