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▼ 31 頬が熱いのはパスタを茹でているせい

「イワン、トマト系とクリーム系どっちがいい?」
「ど、どっちでもいいよ」
条件付きではあるが、晴れて二人は恋人同士になった。
今日も含めしばらくは冬季休暇のため恋人同士で居られる。

昼を少し過ぎた頃、「そういえばお昼ご飯」、とリツがポツリとこぼした。
何の余韻もなくあっさりとリツはイワンから離れ、「なに食べるー?」とキッチンをあさっていた。

「DVD好きなの見ていいよ」
「う、うん」

いつも通りのリツ。
ドギマギしているのは自分だけなのかな、とイワンはリツに背を向け唇を尖らせた。

緊張して心臓はうるさくて多分顔も赤くなていただろうけれど、
わがままを言うならばもう少しリツとくっついていたかったな、と思うのだ。

リツがDVDを見ながら寝てしまった時も、寝息を立てくたりと体を預けるリツが愛おしかった。

授業が始まれば恋人関係に待ったがかかる。
そうなればリツに触れられるのは対人格闘で組手をしたりする時のみで。

冬季休暇が終わるまでこうして二人でゆっくりとできる日があれば良いのだが、どうもそうは思えない。
欲ばりすぎかな、とイワンはため息をついた。
とりあえず今を楽しもう、とDVDに集中することにした。


対してリツは、パスタの具材をどれにするか、しばらく離れていた実家のキッチンを把握するのに忙しい。

大したものは作れないが、外でお金をかけて食べるよりは、と学生のサガが申しているのである。

(カルボナーラと……サラダでいいかな。 あ、パウチのアサリみっけ)

アサリのコンソメスープをつければトレーニングをしない今日ならば十分だろうとリツは一人頷いた。
夜に寮に戻ればクリスマスメニューと、題されたカロリー高めの食事が待っている。


(欲に勝てなかったなぁ……)

休日だけ恋人関係だなんて。
けれどそれで成績が下がるようならリツは今度こそ鬼にならざるを得ない。

(まあ、座学はイワンの方が上だけれども……)

冬季休暇に入る前に返却された筆記テストはリツは中程の成績、エドワードはトップ、次席にイワンの名前があった。

今どき順位を貼り出すなんて時代錯誤も甚だしいと思いつつ
今度は抜かりなく早めに勉強しようと心に誓った。

「……」

ちらりとイワンを見る。
(選んだのはご隠居のやつか)
何度も見て覚えている。アクション俳優ではないのにアクション俳優扱いされやたらと土壁を破壊したりするあの回、もしくは子役の前歯が生え変わりの時期で抜けている回かな、
とリツはサラダ用のレタスをちぎりながら見ていた。

「……」
イワンが彼氏。
彼氏。

(実感があんまりないな……)
もちろん嬉しい。
けれども何が変わるかと言われれば、リツは首をかしげるしかない。

アカデミーの実技では大抵ペアを組んでいるし、
ノートをしょっちゅう借りていて、
ハンナの彼氏との時間を邪魔しないようにと休日に勉強を教わる相手はイワンだ。

そもそも一緒にいてなんだかんだ楽しいので休みの日もヒーローのイベントだなんだと寮の部屋から引っ張り出して遊びに行っている。

エドワードに彼女が出来てからは特にそうだ。
朝昼晩と時間が合えば一緒に食事を摂っている現状で。

「うーん……」

彼氏持ちのハンナを思い出すとしたら毎夜のメール、2、3日に1度の電話。

(そもそも毎日顔合わせてるしなぁ。私らのラブラブメールなんて想像できないな……)

ハートマークを語尾につけたメールを思い浮かべて思わずリツの眉間にシワがよった。

(一緒にいる時の物理的な距離、とかかなぁやっぱり)
ともすればあとは
(手を繋い……だことはある……あとはハグしたりキスしたり? さっきはつい抱きついちゃったけど……)

残るはキス。
「…………」
(いきなりしたら引かれる、かな)

簡単に真っ赤になるイワンに対しあまり攻め込むのは得策ではない気がしてきた。

(って……手にはやらかしてるわ)

ダンスの緊張で震え青ざめるイワンの意識を別な方に持っていこうとやらかした前科がある。

(じゃあ残るは頬とか口? おでこくらいにしておこうかなぁ……)

キス以上は考えるのをやめた。
知識はあるが付き合ったばかりでそこまで心配する必要はないよね、と結論づけた。

なんだか頬が熱い。
きっとこれは暖房の聞いた室内でパスタを茹でているせいだ、とリツは頬を両手で抑えた、





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