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▼ クリスマスに卑怯な手でデートの約束を取り付ける月

「副業は禁止ですよ、ニノミヤ補佐官」
「そこを何とか……見逃してもらえませんか……?」

クリスマスの街角の小さな花屋の前で、サンタクロース姿で平謝りしているリツは上司に更に頭を深く下げた。

「この花屋さん、友達とその旦那さんがやってるんですけど、友達が今朝産気づいて今も頑張ってるんです……
まだ予定日までだいぶあるのに……
今日明日と注文がてんこ盛りなので私が手伝いに来てるんです。
少しでも友達には安心して欲しいじゃないですか」

本当だろうか、とユーリは部下をじっと観察する。

「リツさん! 薔薇まだ余裕ある!? 黄色以外で!」
「はいっ! グリーンと白ならAタイプの花束八ついけるくらいあります。赤は残り25本ピンクは20、フリルタイプが22本あります!」
店の奥からの声に反射的に応えた。

「ごめん、電話出てー」
「はーいただいま……すみません管理官ちょっと失礼します」

リツは鳴り響く電話に手を伸ばす。

「はいエインズフラワーです! はい、はい、ございますよ。 ……カブラギさまですね、はいお取り置きしてお待ちしております……」

「店長、パーティ用フラワーホルダー取置きですー」
「カブラギってまたかよ……透かしの二重になってるヤツ出しといてー。きっと落として踏み潰したんだ『また』」

また、という言葉に引っかかりながらも陳列棚から出して用意しておく。

「あ、すみません管理官……何かお花はいかがですか?」
「……ずいぶんと手馴れているようですが、普段からアルバイトなど……「たまたまです」

リツは冷や汗をかきながらも笑顔で言い切った。

「そうですか……では二十代の女性が好きそうなブーケをお願いできますか」
「わかりました。 その方の好きな色やお花はありますか?」
「……特に。そうですね、ニノミヤさんと同い年ですので、ニノミヤさんの好きな花と色でお願いします」

「かしこまりました」
(二十代の女性。自分と同い年)

思わぬところで得た、堅そうに見える上司の女性関係情報にリツはドキリとした。
年が同じだから好みが同じともいえないのではないかと思ったが、任された以上はとびきり可愛らしく、それでも派手になりすぎないよう花を選んでゆく。

「やはり手際が良いですね」
「えーと、私は何のチェックを受けているんでしょうか……」
「普段からアルバイトをしているのではないかと」
「それは誤解ですって……」

ぱちん、と花切り鋏で長さを揃える。

「時折手に引っかき傷のようなものが出来ている時がありました」

ぴ、と薔薇の棘がリツの指に傷を作った。
リツは気にせず棘と葉を落としていく。

「猫が好きで、たまに猫カフェに行くんです」
「嘘おっしゃい。 先月もここであなたを見ましたよ」
「……」


どう言い逃れをしようか。
リツはぐるぐると考えながらも手を止めない。

「今日は何時までですか」

「……22時までです」
「その後の予定は?」
「こんな感じでどうでしょうか」

少し葉を残した大輪の白バラのアバランシェ。クリーム色で暖かみがあり女性に人気のバラだ。
それにポコポコと咲くこれまた白の小ぶりのSPバラとふわふわのコットンの枝、ユーカリの葉とアイビー、小さな身の付いたポプラスベリーをアレンジしたブーケだ。

派手な色味はないが、ユーリが手に持って女性を待っていたならすごく様になる。
そう思ってリツは花束を作った。

「素敵ですね。それでお願いします」

花束を包装してリボンを巻く。
「どうぞ」
「お代は」
「口止め料ってことで。 内緒にしてください!」
頬をひきつらせつつもリツは花束をユーリに渡した。

受け取ったユーリは目を眇めた。

「私の口止め料は高くつきますよ。 裁判官の正義を曲げようとするのですから」
「え゛」

余計に事態が悪化したかもしれない、とリツは息を飲んだ。

「お仕事が終わる頃お迎えに上がります」
「……え?」
「口止め料に、デート、して頂けますね?」

血色の悪い唇が弧を描く。

「!」

奇しくも、ユーリに似合うように作ってしまった花束を持つ本人に微笑まれれば、
もうどうにでもなれと思えてしまうほど胸が高鳴って何かがストンと落ちてしまった。



恋に落ちる音というのはこういう音がするのかもしれないと、微笑んで無理やりシュテルンドル札を握らされてしまったリツは思ったのだった。




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