のべる | ナノ


▼ クリスマスデートに誘いたい折紙

「どうやって誘うか、なんてフツーに声かけりゃいいじゃねェか」

(そのフツーが分かれば苦労しないのに……)

トレーニングセンターでため息ばかりをついているイワンに見かねたのか、虎徹はイワンの事情を聞き出した。

なんでも意中の女性をデートに誘いたいが誘えずにクリスマスを迎えたらしい。

「で、どこの誰なんだ? 相手によっちゃ誘い方も変わるしなぁ」
どこの誰。言ったが最後、あっという間にヒーロー間に広まりそうな気がするな、とイワンは答えるのを躊躇した。

「その……」
「あ、女子の意見も参考になるかもな。 おーいリツ!」

「!」

(な、な、なんてことを!!)

よりにもよって虎徹はイワンのデートに誘いたい相手を呼び寄せた。

(終わった。僕の恋は終了。誠にありがとうございました)

どんよりと纏う空気が重くなったイワンに虎徹はぎょっとしながらも、ランニングマシンを止めて駆け寄ってきたリツに事情を説明する。

「えー? うーん、そもそもデートで何する予定なの? その内容言って誘えばいいんじゃないの。

ご飯食べに行きませんかー、とか、シンプルイズベストってやつだよ」

「だとよ、折紙」
「はは……大変参考になりましたありがとうございます……」
「リツだったらどう誘われたい?」
「!」
虎徹の何気ない一言にイワンの目が開いた。

「え、私? 私……うーん、そもそもクリスマスは好きな人以外に誘われたくない」

(どう考えても終了ですどうもありがとうございました次回の恋の予定もありませんが次回作にご期待ください)

「お、折紙?」
猫背の悪化したイワンの背を叩く。

「けどいいなぁ、私折紙さんとご飯とか行ったことないから羨ましいよ」

ぴく、とイワンが反応した。

「そうなのか? お前誰とでも空いてる奴誘ってメシ行ってるからてっきり」
「ご飯ひとりは寂しいのー。
だって誘おうとするといつの間にか居ないんだもん。
この前もトレセンにラスト私と折紙さん残ってたから誘おうと思ったらいつの間にか消えてるし」

リツは三日ほど前の夜のことを思い浮かべる。
トイレから戻ってきたら、トレーニングをしていたはずのイワンが消えていたのである。
一時間ほどトレーニングをしながら待っていたが、
イワンは現れず、諦めて帰ろうと着替えて事務局に降りていけば、まだイワンは中にいるはずだという。

しかし戻っても誰もいない。

そういうことが何度か続き、縁が無いのだとリツは諦めた。

「折紙お前……」
「その……その節は……大変申し訳ないことを……」

「え? なにか用事があったんでしょ? 別に折紙さんの仕事の邪魔したいわけじゃないし」

「その……埋め合わせというわけじゃないでござるが……この後ご飯食べに、い、行きませんかっ」
「え? 誘いたい子いるんでしょ? 私じゃなくてその子誘いなよ」

何かを察したのか虎徹はニヤ、と笑いそっとその場を離れた。

「今日はリツさんと行きたくなったのでござる」
「へんなのー。 いいよ、どこいく?」
「実は拙者前前から行きたいところが」
「おっけー、じゃあ折紙さんにおまかせするね!」






おまけ




「じゃ、お先するわねン」

ウインクを残してネイサン・シーモアがトレーニングセンターから出ていった。
夜のトレーニングセンターにはイワンとリツの二人だけが残っていた。

お疲れ様でした、とネイサンに応え、あとはマシンとトレーニングをする息遣いだけしか聞こえない。

ひたすらバイクを漕ぐリツは、このあとの夕食をどうするか考えていた。
昨日はパオリンとネイサンと有機栽培を謳う菜食バイキングに行った。
その前は虎徹とアントニオを焼肉屋、その前はカリーナと寿司バーに行った。

大体のヒーロー全員とリツは食事に行ったが、未だ折紙サイクロンの中の人、イワン・カレリンとは仕事以外、トレーニングセンターの外で会ったことは無かった。

(誘いたいなぁ……)

ちらりとガラスに映ったイワンの姿を盗み見る。
イワンは手裏剣を投げる練習をしていた。

(あ、おしい)

一枚的から外れた。

「!」
ガラスの反射越しに目が合った。

(うん、誘ってみよ)

ドリンクを飲み、トイレへと立つ。
戻ったらイワンを誘ってみよう、何食べようかな、イワンは嫌いな食べ物あるのかな。
つらつらとそんなことを考えながらトレーニングルームに戻ると、そこにはイワンの姿はなかった。

「……」
(折紙さんもトイレかな)

その時は深く考えずに戻って来たら声をかけよう、とトレーニングを再開したが、結局イワンが戻ってくることは無かった。










ネイサン・シーモアがウインクを残して帰って行った。

トレーニングセンターにはイワンとリツ2人きりになってしまった。
(誘うなら今チャンスでござる……)

けれどもリツは真剣にトレーニングをしていてなかなか声をかけるタイミングがつかめなかった。

何度もチャンスを伺うイワンは何度もリツの方を見る。

「!」
ついにイワンとリツの視線がガラスの反射越しにぶつかった。

(ば、ばれた……見てるのばれた……いや、見てるのずっとバレてて何見てるんだコノヤローって思ってこっちを見たんじゃ……
も、もうダメだ気持ち悪がられた! 嫌われた! キモがられてるよね僕!)

そしてどこまでも落ち込みいたたまれなくなり、リツがトイレに行った隙に手元にある手裏剣に擬態した。

(もう……リツさんはきっと僕をゴミを見るような目で見るに違いない。耐えられない……リツさんが帰るまで消えてよう……)



その繰り返しでイワンはクリスマスを迎えたのであった。


prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -