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▼ 21

「リツ、起きるんだ。リツ?」

揺すられている。
ねむい、起きたくない。

私は腕のPDAをみた。

「大丈夫、しゅちゅどうじゃない」

あれ、呂律がまわらない。

ああ、お酒飲んだからだ。ご飯食べた後も飲んだんだっけ。まだ酔いがさめないのか。

「リツ」

キースが呼んでいる。

でも眠いんだもん。ごめんキース。











ほて、とリツの頭が肩にもたれてきた。
「リツ?」

急いで支えれば、スヤスヤと寝息を立てていた。

「リツ、起きて。起きるんだリツ」

「……大丈夫、しゅちゅどうじゃない」

どうやら全然大丈夫じゃないらしい。

ふと、普段は着ない短めのワンピースからのぞく太ももに目がいく。
力が抜けてゆるく開かれた両足は裾がずり上がり下着が見えてしまいそうだ。

キースは少し悩み、上着をかけて抱き上げた。
これならば下着のピンチは免れる、と、誰にともなく頷いた。






ベッドに寝かせて薄掛けをかけてやればなにやらむにゃむにゃと口を動かした。

聞きとろうと口許に耳を近づける。

「にゃ……じゃなくて……なんだいリツ」

なんだろう。

「ひにゃだな…い……ばか…きぃ……す」


ひにゃ?

ひにゃだない

最後はきっと『馬鹿キース』

なんだろう、寝言で悪口とは。

「なんだい。もう一度言ってごらん」

「う……ばかきぃ……」

そっちではない。

「ひにゃだないって一体なんの……」

もしかして。
思い当たる言葉にどくりと心臓が主張した。


『リツ、リツはきっと勘違いをしているんだ。
知らない世界に迷い込んで、誰も頼れない状況に置かれた君が……
一番一緒にいた私に抱く想いは『鳥の雛』が親鳥に抱くような、そんな刷り込みの想いだよ』

『ひにゃだな…い』
「雛じゃ……ない?」

「うーん」

なにやら眉間にシワが寄っている。

「ばーなぃ……らめぇ」

(リツ!なんの夢を見てーー!?

バーナビー君に何をされているんだリツ!!)

「…………………」


固唾を飲んで見守っていたが、寝言は終わってしまった。

雛じゃない、馬鹿キース

バーナビーだめ

「……」

気になる。
本人はキースの気持ちも知らずに気持ちよさそうに眠っている。

寝顔を見るのはかなり久しぶりだ。

少し化粧が崩れている。
日本人のリツは今まで少し幼く見えていた。
が、こうして化粧をすればぐっと大人びて見える。
丸いおでこ。滑らかな頬、ふっくりとした唇。

邪な想いがキースの身の内でかま首をもたげた。

グロスが取れて艶は無くなってるが、リツのくちびるはアルコールが入ったせいでいつもより赤みが増している。

(雛でないのならば。……雛でないのならば)
その先に続く思いに苦笑した。

仲直りをしようと自分から言ったくせに。

十二分に良心と葛藤し、キースはそっとリツに口付けた。

リツの唇は、月並みな言い方だがとても柔らかかった。

もっとしたい。

もう一度ふにゅりと彼女の唇に己のそれを押し付けた。

もっと、味わいたい。

ぬるりと舌で彼女の口唇を割る。微かにあいた歯列をもっとひらけとばかりにゆっくりとなぞる。

「ん……」

鼻から声が抜ける。

ゆるゆるとリツの口が開く。

もっと深く、もっと深く。
心臓が早鐘をうつ。

歯の付け根を舌でゆっくりなぞり、小さな舌をとらえた。

少しざらつくそれを己の舌でつつき絡ませる。

己の呼吸の荒さに笑えるくらい興奮しているのが分かる。


リツの髪をなで、耳をなぞり首筋をさわさわとなでる。

キスがこんなに気持ちいいなんて。

「んん……」

リツの声に慌てて唇を離す。
しまった、軽く唇を押し付けるだけのつもりが。


自分の鼓動がうるさい。
ゆっくりと深呼吸をして気持ちを鎮める。

(ーーダメだ)

一度高ぶってしまった体は静まりそうにない。

チラリとリツを見る。

リツは相変わらず寝息を立てている。

ーーあと少しだけ。あと少しだけ味わったらシャワーを浴びて、熱を鎮めて寝てしまおう。


出会った頃より少しだけ筋肉のついた体。
程よく引き締まった彼女の体はとても魅力的なラインをしていた。

あらわになっている鎖骨をなぞり、口づける。

一度顔を離して様子を見る。

リツは起きない。

もう一度鎖骨に口づけ、首筋に顔をうずめる。

すん、と彼女の匂いを取り込めばよりいっそう彼女の事が愛おしくなる。


(あれ?)

もう一度、今度はゆっくりと彼女の香りを吸い込む。

匂いが違う。

ホテルに泊まると言った次の朝、彼女を抱きしめた時と香りが違う。

ホテルに泊まったのならボディソープは変わる。匂いが変わるのも不思議ではないが……まるであの時の香りは男物のソープの香りだったように思える。

(男物のソープの香り……)

嫌な考えがぐるぐると頭の中をめぐる。

男物のソープの香り。
いやまさか。彼女に限って。

『ばーなぃ……らめぇ 』

目の奥がチカチカする。

違う。ホテルに泊まったから匂いが違うだけ。

いや、バーナビーはリツを執拗に食事に誘っていなかったか。

あの時既にステルスリッターがリツだと知っていたのだとしたら。



ずきりと胸が悲鳴を上げる。

「ーーーっ」

呼吸が早くなる。うまく吸えない。
これは過呼吸の症状だ。

しびれる指先で胸元を掻く。



(ーー本当の恋をしたほうがいいと自ら手放したというのに。
仲直りしようと言ったばかりなのに。
言ったばかりで矛盾することばかり私はしている)


キースはリツを見下ろし、その寝顔を見たかもしれないバーナビーへの嫉妬心に胸が潰れそうだった。


(すまないリツ。
私はやっぱり、君が好きだ)


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