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▼ 24 独占欲、嫉妬心

「真っ白に燃え尽きたよ」
「おつかれ。あたしも燃え尽きた。 けどこれで彼氏とメールし放題、何の気兼ねもなく電話できるし週末にはデートもできる……」

回収されていく答案用紙を見送り、教師が枚数をチェックして出ていけばあちこちから安堵のため息が聞こえてきた。

「リツ、手応えは?」
「なんとかなった。 Bは堅いと思うよ」
「じゃあ実技と授業中とでB+かA狙えるわね」
「もう、寝る」
「しっかりしてリツ、せめて寮に戻ってから力尽きてちょうだい」

ハンナはさっさと帰り支度をする。
リツも重い体をのろのろと動かし筆記用具を仕舞いカバンに収める。

テストが返ってくればアカデミーは冬休みに入る。
寮に残るも家に帰るも自由だが、ヒーローを目指す者に帰るという選択肢はない。

冬休み中はヒーロー事業に参入している企業や、これから参入を目指す企業の人間がアカデミーを訪れ、希望する者との面接を行ったり、
企業へのアピールの場としてクリスマスイブにパーティが開かれる。

(イワンはきっと残るよねぇ……)
ハンナは真っ先に帰るだろう。

エドワードもヒーローを目指しているのだから残留決定として、リツは悶々とクリスマスイブのパーティのことを考えていた。

気が早いかもしれないが、実際準備を考えるとそんなに早くはない。
ただドレスアップをして華やかな会場でアハハオホホとお話をする、そんな平和なパーティではないのである。

(イワンの能力を活かせるアピールってなんだろう)

リツの父親が現役を退き、コメンテーターとして活動するようになってからリツは何度か件のパーティについて行ったことがある。

そのパーティでは自分のネクスト能力の有用性をアピールしようと様々な趣向を凝らした『アピール』が行われてきた。

ある時は会場の中でブリザードが吹き荒れたり、
ある時は用意された軽食のチョコレートがすべて溶けだし一つに集まりモンスターの形になったり、

またある時はオペラを歌って半径10mに立つ生徒を卒倒させたり。

まっとうなアピールならばまだいいが、インパクトを残そうとトンデモアピールをする生徒もいるので気が抜けないのである。

(きっとイワンの性格じゃあ実行に移せないだろうな)

もし何かを考えついたとして、引っ込み思案な彼は大勢の前でそれを実行できるかと考えた時、答えはNO以外浮かばなかった。


まず第一にパートナーを見つけなくてはいけない。

イワンに誰かを誘う度胸があれば良いのだが。

(無理だろうなぁ……)

リツは視界の端に映る明るいブロンドヘアの性格を再三思い浮かべため息をついた。












「リツさん、クリスマスイブのパーティ一緒に出てもらえないかな」
「あー、ごめん、無理なんだ」

リツは愛想笑いを顔に貼り付けて断る。
テスト勉強から開放された途端にこれである。
アカデミーに籍を置く生徒の男女比を考えれば仕方の無い事ではあるが、リツは既に四人誘いを断っていた。

「どうして? パートナーがいるわけじゃないんだろ。 それとも相手誰かいるの?」
「うーん、実家に帰るから無理なんだよね」

(イワンが誘えるくらいの女子って私くらいしかいないけど……どうしようかな)

リツはイワンの交友関係すべてを把握している訳では無い。
流石にそんな気持ち悪い事はしたくないし、そんな人間にはなりたく無かった。

リツが知らないだけでイワンにも他に女友達がいるかもしれない。
もしくはイワンのことを誘う女子がいるかもしれない。

ちくりと胸が痛んだが、なるべく無視をして平静を保つように心がける。

(イワンの隣にほかの女の子……)

ほんの少し、いや、かなり鮮明に想像してリツは頭の中から出ていけとばかりに頭をブンブンと振った。

(やばい。これはやばい)

ちくりどころかズキズキと結構な痛みを感じる。

(独占欲、嫉妬心、うわーいやだーっ)

けれどもヒーローを目指す人間は恋愛対象外としているのだから告白なんて出来るはずもないし、
まだ見ぬイワンの隣に立つ女性に嫉妬する資格もないわけで。

「……」
(どうしよう、結構厄介だ……)

気持ちの折り合いのつかなさにリツはため息を禁じえない。

ならばさっさとリツから誘ってしまえばあっさりと解決しそうなものだが、
それはそれで恋心を加速させてしまいそうでどうにも踏み切れずにいた。

(イワン誘ってくれないかなぁ)

期待をしてしまえば、叶わなかった時より一層寂しくなる。
リツは頬をぱちんと叩いて淡い期待を追い出した。





一年目のクリスマス
に続きます。

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