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▼ 22 試験期間中なのに空気読めない人っているよね

「やばいよ、救護活動の筆記の範囲広すぎるよ」
「リツ、あなた実技だけはいいのにね」
「だ、だってあれはやればわかるじゃん! それをわざわざ机上の紙の上でやる意味がわからない!」

「リツの理屈がよくわかんない」

リツは頭を抱えていた。
もうすぐ定期考査がある。その出題範囲が発表になり、よりによって一番苦手な教科『救護活動理論・実践』が1番範囲が広く既にリツは絶望していた。

「死ぬ気で勉強するしかないと思うわよ」
「……ですよね」
「救護活動ならカレリン君に聞けば」
「なんで?」
「別にケディ君でもいいけど、リツ仲いいじゃない。二人とも頭いいし」

むす、とリツは黙り込んだ。
(これ以上馬鹿を晒すのもなぁ……)

「ハンナ一緒に勉強しよ」
「嫌」
「なんで!?」

ハンナは綺麗に笑うとその形の良い唇からひどい言葉を吐いた。

「効率よく勉強して彼氏と電話する時間をつくるの。リツに構ってたら電話する時間なくなっちゃう」

「ひ、ひとでなし……っ」
なんとでもいえばいいわ、とハンナは携帯をポチポチいじっている。
彼氏とメールをしているのだろう。

「カレリン君に成績バレたくないならケディ君に声かけたら」
「どっちみちバレるよ、ふたりは同室なんだしさ」
「じゃあ自力で頑張んなさいよ」
「英語の書き取りが不自由な私に世間が厳しい。厳しすぎる」

ぺらりぺらりと教科書をめくる。
怪我の手当のページで、第一発見者のイラストにヒゲを書き入れた。

「あーもう……日本語で回答してもいいかな」
「まずは単語の練習から始めたら?」
「……エレメンタリー生と同レベルか私は」

はあ、とため息をついてリツはノートを広げた。












「体が、なまる」

テスト週間三日目、教室でおもむろにリツが呟いた。

間違ってもF判定など出した日には盛大に怒られてしまう。
誰に、ってお小遣いをたんまり貰った伯父に、だ。
なのでトレーニングを休んでその分の時間を朝と夜自主勉強に当てている。

伯父の会社に就職の約束をしていて、学費も伯父持ちなので、主席になれなくても最低限上位グループの中に名前を残したい。
「明日で終わるからがんば」
「もう無理、我慢出来ない。 ちょっと走ってくる」
「部屋で腕立てにしたら。 床にプリントおいて読みながら腕立て」
「ハンナ天才」
くわりと見開いた目は血走っている。


「……イワン、リツ誘ってランニングしてこいよ」
「えっ」
コソッとエドワードがイワンの耳元で囁いた。
「お前チラチラリツのこと見てんじゃん。 ストレス発散に付き合って株上げてこいよ」
「み、みてないよ……」

ぶわ、と冷や汗が吹き出した。
けれども頬は誰が見てもわかるくらい赤くなっている。

「ストレス発散に付き合ってやるのも『友達』なら当然、だろ?」

にや、と笑うエドワードだが、イワンはうつむいていて気づかない。

「ともだち……」
「そ。友達なら支えあって励ましあって当然だ」
「後でメールしてみる」

「……」
(同じ教室にいるんだから誘えよ!)

そう突っ込みたかったが、エドワードはなんとか我慢した。












『ちょっと体動かして息抜きしない?』

そうイワンはリツにメールを送った。返事はすぐに帰ってきて、夕食の後体育館で会うことになった。

「体育館で何するんだよ」
「え? 運動だけど」
「……おまえさ……まあいいや」

(何?!)

自分の選択したものは間違っていたのだろうか。
エドワードにどうしたらいいのかと聞いても、「お前がいいならいいんじゃないのか」といった返事しか返って来ず、
イワンは今更ながら不安に苛まれていた。


そして夕食後に体育館に行けば。

「そっかぁ、ごめんね……私ヒーロー目指してる人は恋愛対象外なんだよね」

甘酸っぱくも苦い告白現場に出くわした。
声を聞いてとっさに身を隠す。

「気持ちはうれしいよ。ありがとね、でも応えられないんだ。ごめん」

(リツの声だ……)
男の方の声は聞いたことがない。
違うクラスの男子だろうか。

「ニノミヤさんはカレリンかケディが好きなの?」
「あは、まさか。 二人ともヒーロー志望だよ? 気が合うからつるんでるだけ」

(ヒーロー志望、ヒーロー目指している人は対象外……)
その言葉がイワンの心臓を鷲掴みにした。

(リツは、友達だから)

友達なのだから関係ないじゃないか。
なのに、胸がチクチクと痛む。

「!」

男子生徒が体育館から出てきた。
見つからないようにと身を縮めていれば、とん、と肩が叩かれた。

「さては、聞いていたねイワン君」
「ご、ごめん! 聞くつもりはなくてっ」
「まあ、いるよね、試験期間中なのに空気読めないやつ」

「な、なにが?」

「だってさあ、好きな人に告白するんだよ。
考えてもみなよ、振られたらショックで勉強できないし、テスト本番なんてなおさらだよ。

好きな人と両思いで恋人に慣れたらそれはそれで舞い上がっちゃって勉強に身が入らないというか、さ」

リツはため息をついた。

「さ、イワン、ストレス発散付き合ってよ!」

ニコリと笑うリツの指さす先には二本の竹刀が壁に立てかけてあった。



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