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▼ 20 平和的に絶対許さない

「ねえってばー、それ預かるって」
「リツさんはあいつのこと好きなの?」

「……は?」

食堂を出て人けの少ない通路まで来たところでくるりと男子生徒は振り返った。

「なんかあいつばっかり気にかけて、つるんでるしさ。 あんな根暗野郎リツさんには相応しくないよ」

「はあ……」
(なんだよその超絶ぶっ飛び理論は)
けれど、この男の言葉に嫌な思い出が蘇る。

何を言いたいのか分かってしまったら、あとは解決を目指すのみ。

目の前にいるのは顔だけは良い勘違い野郎、きっとヒーローを目指せるネクスト能力とこの顔で女に困っていないタイプ。
ならば自分なんかに構わず他に目を向けて欲しいとリツは心の底から思った。

入学してから一番注目されたリツと関係を築くために一番近い男子を攻撃対象にしたのだろう。
が、その短慮稚拙な考えにリツはほとほと嫌気が指した。

「あいつも身の程知らずでリツさんに付きまとってさ! ウザかったでしょ、これからはさ、オレらと」
「ねぇキミ、ヒーロー目指してる?」
何の脈絡もなくリツは切り出した。

「そりゃ、ヒーローにはなりたいけど。 あいつはあんなネクストじゃ絶対無「そういうの私嫌いだなぁー」

男子生徒の目に一瞬険が宿る。
その様子を見て自分の予想はあながち外れていなかった、とリツは苦笑いを浮かべた。
「私らネクストってほんといろんな能力あるよね。
何の使い道のない能力もあれば便利な能力もある。
それこそヒーロー向きの能力もあればあどう足掻こうがヒーローに向かない能力もある。

けど、その人の限界を他人が決めるのは、ちょっとお節介が過ぎるよ」

じ、とリツは男子生徒の目を見る。

「たまにいるんだよね、私にふさわしい友達とやらを選定してくれる人。
ほんとお節介が過ぎる」

「リツさん?」

「陰湿なイジメ、エスカレートして最後には暴力。

そいつらが最後にどうなったか、知りたい?」

ニッコリとリツは微笑んだ。












「ああ、リツか」
「おそくなってごめん。 これ、取り返してきた。あと、エドワードもイワンもご飯食べてないでしょ。食堂でサンドイッチ作ってもらったんだ」

リツはイワンとエドワードの部屋を訪ねた。
ノックをして出てきたのはエドワードで、その頬は腫れていた。
「サンキュ」
「ねぇ、イワンは?」
「ちょっと待ってろ」

待っていろ、とエドワードは部屋に引っ込み、話し声がして、また戻ってきた。
「あー、その、ケータイありがとって言ってた」
「エドワードほっぺ腫れてる。他に怪我は?」
「オレは大丈夫。 まあ、明日話す」

(私とは話したくない、のかな。)
本当ならイワンに直接会って話したい。謝りたい。
アカデミーに入学したばかりだし、同じようなことが起こるにしても、もっと後だとばかり楽天的に考えていた。
「うん、じゃあねまた明日。お休み……」
「あ。女子寮の入口まで送ってく」
「いいよ、平気」
「イワン、ちょっとリツ送ってくるわ!」

エドワードは部屋の中に向かって言い放つ。

「平気なのに」
「そもそも夜に男子寮来る方が間違ってんだよ。
よく止められずに来れたよな
まあ、飯は助かったけど」
「……ねえ、他に何されたの?」
頬以外にも見えないところを怪我しているかもしれない。
けれど服で隠れていてはわからない。

「ま、名誉の負傷ってやつ?」
に、とエドワードは笑みを作った。
「ごめんね、私のせいだ」
「ちげーよ」
「違わない。ごめん。」

リツはエドワードを見上げ謝った。

「前の学校でも同じことがあったんだ。 ヒーロー目指す正義の学校なら大丈夫かなって思ってたんだけど、やっぱどこでもあるんだね、こういう事」
「言っとくけどオレは狙われたわけじゃないからな」

「え?」
「狙われたのはイワンだ。 あいつほら、基本的に静かだから。
あいつが囲まれてるところを見つけて駆けつけてこのザマ。 カッコ悪いよなぁオレ」

狙われたのはイワン。
囲まれていた。
その二言がぐるぐるとリツの胸の中でうずまき影を差す。

「そう、だったんだ」
「多分あいつは明日休むと思う」
「無理しないでって伝えて。あと、直接謝りたいな……」
「リツのせいじゃねーよ」
「私のせいだよ」
「ちげーから」

ぐしゃ、とエドワードはリツの頭をかき回した。
「うわっ」
「気にすんなって言ってんだから気にすんなよ。
だからそんな顔すんなって」

「ごめんね。 あとでイワンにもメールしようかな、迷惑だと思う?」
「喜ぶんじゃね? なんだかんだリツに懐いてるしな」
「なつ……」

犬猫じゃあるまいし、と言おうとしたところでリツは詰まった。
忍者忍者とはしゃいだ彼に犬耳が生えている錯覚が浮かんだ。

(いやいやダメでしょこれは)

苦笑いとともに想像した姿を頭の中から追い出し、女子寮の前で「じゃあまた明日」と、エドワードと別れた。

「……」
ポケットから携帯電話を取り出し、目当ての人物に発信する。

「……もしもし、おじさん、ごめんね夜に……仕事中?
校長先生に連絡取りたいんだよね、すぐに、今すぐ。」

本当ならイワンを取り囲んだ全員をぶん殴ってやりたい。
いや、殴るだけでは足りない。
ああしてこうして、と口にするには物騒な手段でけちょんけちょんにしてやりたいが、それではリツも罰せられてしまう。

頼るべきは、校内の権力、つまり取るべき手段はチクることである。



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