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▼ 19 声をかけるのは

「イワーン、一般常識のノート見せて」
「……どうぞ」

一日の授業が終わるとリツはイワンの席にノート片手にやってきた。
「あ……貸すよ。明日返してもらえれば……」
「そう? じゃあ借りるね、サンキューイワン!」

リツはノートを受け取るとハンナたちほかの女子と寮に戻ってしまった。

一人また一人と教室から人がいなくなる。
宿題を終わらせてから戻ろうとプリントを広げた手元に自分のものではない影が差した。

「イワン・カレリンってお前だろ?」

「……そう、だけど……誰ですか」

アカデミーのジャージを着た三人。
見上げて顔を確認すれば、同じクラスの人間ではなかった。

「ちょっと来いよ、来てくれるよなァ?」


およそ平和的ではない、有無を言わせないお誘いをイワンが断れるはずもなく、おとなしくついていけば、そこには更に三人の生徒がいた。

思わず足を止めるが、背中を押され無理やり歩かされる。

「待ってたぜ、『イアン』くん」












「ねぇ、リツってば、カレリン君のこと好きなんでしょ?」
「え?」

夕食。
寮の食堂でリツはハンナと食べていた。
「なんで?」
「だって、カレリン君と仲がいいじゃない。 昨日一緒に出かけてたし」

この恋バナ全振りガールは男友達と云う概念を知らないのだろうか。リツはチキンを頬張りながら冷めた目でハンナを見た。

「別に……ていうか前にも言ったけど、ヒーロー目指してる時点で恋愛対象じゃない」
ガチャン!と食堂のどこかで派手な音がした。

「う〜ん、でもカレリン君のネクスト能力ならヒーローの望み薄そうじゃない?」
「ーーハンナ、そういうことは言うものじゃないと思う」

ごめん、とハンナは謝るが、リツの表情は冴えない。
「ヒーローってさ、派手なだけがヒーローじゃないと思うんだ」
「え?」

「ミスターレジェンドは目立って、能力パフォーマンスも派手でかっこよかった。
けど、ミスターレジェンドが活躍してる時、カメラに写らないところでほかのヒーローも人命救助とか、避難誘導とか、リスク回避のために活動していたわけだし」

テレビで見た、昔の父の姿が脳裏に過ぎった。

「彼みたいなヒーローもいいと思うけどね」

くるくるとパスタを巻きとりながらリツはハンナを見て少し悲しそうに笑った。


「そういえば、カレリン君とケディ君来てないね」
時刻は19時。いつもはもっと早くに来ている二人がいない。
ハンナの言葉にリツは周りを見渡すが確かにふたりの姿はなかった。

「どうしたんだろ」
リツはイワンにメールをうつ。

『ご飯の時間終わっちゃうよー
食べないの?』

送信。パタンと携帯を閉じデザートのフルーツに手をつけようとした、その時。

「!」

斜め向かいのテーブルに座る男子の集団から電子音が聞こえた。
その生徒が携帯を開き、閉じた物にリツは見覚えがあった。

お揃いで買った葵の御紋のステッカー。
「……」
「ちょ、ちょっとリツ!?」

勢い良く立ち上がればパイプ椅子が倒れガシャンと大きな音を立てた。
何事だと食堂じゅうの視線がリツに、あつまる。

つかつかと大股で歩み寄り、男子生徒の側で立ち止まる。

「ねえ、それ、どうしたの?」

ゆっくりと、笑顔でリツは話しかけた。
「何? これ俺のだけど」
リツは無言で携帯をいじれば、男子生徒の持つ携帯電話からまた電子音が鳴った。

間違えるはずがない。金蒔絵のシールが貼られたそれはどう見てもイワンの持ち物だ。

「今友達にメールしたんだけどさ。 それ友達のやつみたい。拾ってくれたのかな、ありがとう、ね?」

リツは手を差し出した。勿論握手などではなく、よこせ、という意味である。

「君のじゃないよねぇ、似てるから間違えたのかなぁ?
ねえ、それの持ち主と、お話でもしたの?」

「な、なんだよ、俺のだって言ってんだろ!」
「あのさ、穏便に済まそうとしてる私の好意をそうドブに捨てるような事言わなくてもいいんじゃないかなぁ」

「リツ、やめなよ……」
ハンナがリツの袖を引くが、リツはもう一度手をずい、と差し出した。

「私、届けとくからさ、ちょうだい。
他に届けるもの、あるかな。 あるならついでに預かるよ」

ち、と舌打ちをして男子生徒は立ち上がり食堂を出ていこうとする。

その後をリツは付いて行く。
「ねぇリツってば…」
「ごめんハンナ、先に戻ってて」
リツは笑みを顔に貼り付け、袖をつかむハンナの手をやんわりと外した。

「リツ……どうしよう!」

ハンナは青ざめ、リツが食堂から出ていく後ろ姿を呆然と見送った。




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