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▼ 18 ふとした瞬間にときめくから困る

「あ、ステルスソルジャーのグッズもあるんだね」
「!」

何気なくイワンが言った一言にリツの肩が跳ねた。

「あ、そうだねぇ。 ステージから声してるしね、はは……」

ヒーローグッズのスタンドにいけばそこはすごい人ごみで、やっと商品の前にたどり着けばそこにはあまり見たくなかったヒーローのグッズがあった。

「もう引退してるのにねぇ……はは……あれ、これ新しいヤツかな?」
実家に帰れば山ほどあるグッズは父が貰ってきたり母がせっせと集めたものだ。
発売されているものはコンプリートしているのではないかとリツは思っていたのだが、見たことのないものがあった。

「おっ! お嬢さんステルスソルジャーのファンかい? それは今回のイベント限定の新しいキーホルダーでねぇ。 よくぞ見分けた!」

「あ、そうでしたか……」
店員の説明に納得する。
(限定なのかぁ……ママに送ってあげようかなぁ……)

「じゃあ一つください」
「はいよっ」

「リツステルスソルジャー好きなの?」
「ママがね。 だからお土産。 断じてわたし用じゃないから。ママ用だから。」
「そ、そうなんだ……」

断じて、と強く言うリツにイワンはそれ以上何も言わなかった。

「やっぱスカイハイは人気だねぇ」

カードは売り切れてしまっているし、カラになっているスペースもある。

「何回か補充してるんだけどねぇ、おっつかないんだわ……ごめんなぁお嬢ちゃんたち」
店員が苦笑いで応える。

現役ヒーローではスカイハイが一番人気、ロックバイソンが最下位といった所だろうか。

イワンはパンフレットやらストラップやらを買い込み、スカイハイのカードが買えなかったことを嘆いていた。

「どんまいイワン 」
「うん……」

肩を叩き慰める。
スカイハイのカードは今日のイベント以外でもどこも品薄だ。
すごいヒーローがデビューしたな、とリツは風使いの姿を思い浮かべる。

白いヒーロースーツで空を飛ぶ。

「天使だね」
「同意でござる」

独り言だったが、なにが、と言わずともイワンに通じたようだった。

「あっ! イワン今何時?」
「今……もうすぐ14時」
「そろそろだよ。ステージの方行こう」

ステージにスカイハイの出演予定はない。
が、事件で出動がかからない限りトークのタイミングによるが14時以降にスカイハイがシークレットゲストとしてゲリラ出演するのだ。

また手をつないでふたりはステージに向かう。
ステージではステルスソルジャーと自称ヒーロー大好きアイドルや芸人たちとのトークだった。

それが終わりステージからはけたその時。

「イワン、イワン、あそこ!」
リツは空を指さした。
「えっ? あっ!!」

スカイハイだ。
空からぐんぐん近づいてくる影。
観客も気づいたのか悲鳴に近い歓声が上がった。

会場の上を何度か旋回し、スピードを落として手に持っていたカゴから何かを放り投げた。

「なんだろ……あっぬいぐるみもある! カードと……お菓子かな?」

リツは目を凝らしてスカイハイがばらまく『何か』を見極めようと唸る。

「リツ、こっちにくるよっ」

リツとイワンは手を伸ばし『何か』が落ちてくるのを待った。

「あっ」

イワンが手を伸ばしたぬいぐるみが奪われた。

「ああ……」
目に見えてがっくりとうなだれたイワンの背をさすり励ます。
「どんまい……あっ」
頭上に落ちてきたものをジャンプしてキャッチする。

「おお……?」
キャッチしたのはスカイハイのカード。
見てみればサインが入っていた。

「イワン、これあげる」
「え?」
うつむいた視界に入るようずずいと差し出せば、ばっと顔を上げた。
「いいのっ!?」
「うん、あげるよ」
「かたじけないでござるっ!! ありがとうリツ!!」
「!」

イワンの顔が笑顔に変わった。
これほどまでのイワンの満面の笑みをリツは見たことが無かった。

「ど、どういたしまして……」

(か、可愛い……っ!)
男の子に可愛いと感想を抱くのは申し訳ない。
がしかし、めったに口角の上がらないイワンの珍しい表情を見れたのだからスカイハイには感謝してもしきれない。

やっと心拍数が元に戻ったばかりだというのに、リツの心臓はまた主張しだした。
まあまあ落ち着けとばかりに胸を抑えさすった。
(参ったなぁ……)

リツはカードを嬉しそうに見つめるイワンの横顔をちらりと盗み見て、
あとは降ってくるキャンディを掴まえることだけに集中することにした。













今一番人気の新人ヒーロースカイハイの登場でステージは大いに盛り上がった。
スカイハイとステルスソルジャーのトークは、若干とぼけたようなスカイハイの受け答えに笑いながらも誠実なスカイハイのキャラクターはファンの心をガッチリ掴んだようだった。

そろそろ帰ろうか、と二人はステージを離れた。
寮の夕食の時間までに帰らなくては食いっぱぐれることになる。学生の身分ではお小遣いは大切だ。


「うわ」
ニホンの通勤通学時間帯の電車を彷彿とさせるモノレールの混み用にリツはぽつりとこぼした。
「イベントの後だしね……」
「リツ、こっち」

リツはイワンに手を引かれるままモノレールの中を移動する。
ぎゅうぎゅうと前後左右から押されこんなに乗って重量制限は大丈夫なのだろうかと、若干心配になる。
「うわっ」
「大丈夫?」
「平気……」
吊革にも掴まれず、揺れて押されるたびにリツは踏ん張るものの健闘むなしくよろけてしまった。

(イワンに心配されるなんてなぁ……)

二度ほど周囲に押されよろけたところで、イワンの手がリツの背中に回された。

「!」
「あ、ご、ごめん……でも危ないから……」
「ありがと……」
(こいつ……本物のイワンじゃなかったりして……)

普段のイワンならきっと手をつないだり、こうして密着したまま支えたりなどしないだろう。
混乱し始めたリツは見当違いの疑いをイワンにかけ、いやまさか、と打ち消した。

ちらりとイワンの顔を見れば顔をそらしていてリツからは表情見えなかったが、明るい金の髪から覗く耳が色づいていた。
(顔見れないくらい照れるならするなよ)
なんだかおかしくなりリツも顔を背けてくすりと笑った。
その後も周りの人間が押すせいだと理由をつけてリツはモノレールが止まるまでぴとりとイワンにくっついていた。



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