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▼ 19


リツがキースに呼び出されたジャスティスタワー内のカフェに入ればすぐにキースを見つけることが出来た。
キースだけではない。もう一人、キースの向かい側に座っていた。

その特徴的なシルエットに後ろ姿でも誰なのかわかる。

「遅くなってごめんね、あの、これは……」
「リツ、知っていると思うが」

キースが紹介しようとした時、バーナビーは笑顔で遮った。

「僕も知っていますよ、『彼』の正体」

それまでにこやかだったキースの表情が消えた。

「知っていますよ、ステルスリッターの正体がリツだってこと」

バーナビーの言葉にリツの肩がびくりとはねる。
(内緒にしてっ言ったのに!!)

バーナビーは不敵に笑った。
賢い彼のことだから初対面を装ってくれるかと思いきやそんなことはなく、どうどうとかましてくれた。

「ちなみにリツを僕の部屋に招待したこともあります。
ああ、勘違いしないでくださいね、彼女が自ら正体をばらした訳ではありませんので。
僕が、気づいたんです」

僕が、と強調するバーナビーは笑顔だ。
対するキースは眉間にシワが寄っている。いつも笑顔を絶やさない彼のこの形相はギャップもあいまって恐ろしい。

「そうか。今日はリツをバーナビーくんに紹介しようと思っていたが必要なかったようだね」

「そうですね……けれど、そのうち将来のことを含めて僕からご挨拶に伺うつもりですので『保護者』さん」
「誤解ですからね、違いますからね?」

必死でフォローを入れるも、二人の視線に火花が散っているように見える。
バーナビーも言いすぎだ。いくら協力してくれるとはいえこれでは逆効果な気がする。

「…………」
何を言えば良いのかわからず、リツは口を閉じた。
ひたすら気まずい。
用事があるから来れないと断ればよかったとリツは後悔した。

バーナビーがアポロンメディアに呼び出されたところでこの集まりは早々にお開きになった。

キースと二人取り残されリツは気まずさからキースの目を見れずうつむいたままだ。


「バーナビー君のこと、どういうことなんだい、リツ」











「だから、正体がバレちゃったのは不可抗力で」

バーナビーがリツの話し方、仕草などから気づいたのだとリツは弁解するが、キースの表情は険しい。
リツの姿の時に会ったのは偶然だと言っていたが、その原因の元をたどればキースとの一悶着なのだから結局は誰が悪いとも言えない。

いったい自分は何をしてるんだとキースは深々とため息をついた。

「すまなかった」

頭を下げてリツに謝罪する。

「こんなことに付き合わせてすまなかった」

「私こそごめん。バレちゃったのキースに言ってなかった……」

うつむき小さくなるリツ。

「……服、着てくれたのか」

少し冷静になればリツの洋服には見覚えがあった。

「うん、キースに買ってもらったから……」

「よく似合っているよ。
そうだ、この後食事にでも行こう。誕生日祝えなかったからね」

リツは目をしばたかせた。

「……ジョンが待ってるんじゃないの? 仕事の後帰ってないならジョンだってご飯待ってるはず」

「ああ……じゃあその後に! あ、久しぶりにジョンに会っていくかい?」

ジョンに会える。
その言葉にリツの表情がぱっと明るくなった。

「キースは何が食べたい?」

「え? ああ、リツの誕生日のお祝いなのだからリツの好きなもので……」

「何か作るよ。それならジョンもさみしくないでしょ?」

少し話して、リツはキースとの関係の修復ができるのではないかと期待した。
二人で話すよりはジョンが一緒にいた方がどことなく安心感があるし話しやすいだろうと一緒に住んでいた時の経験からリツは考えた。

これから先も同じ会社に所属するヒーローとしてやっていくのだから、いつまでもギクシャクしているわけにはいかない。

「君の作るものならなんでも!」

「ええ? そう言われると困るんだけど……」

リツの素晴らしい提案に思わずキースは女神に祈りたくなった。
「そうだな、じゃあ、リツの作るハンバーグがいいな」

「りょーかい」
ふわりとリツが微笑んだ。
なんだか久しぶりにリツの笑顔を見た気がする、とキースもつられて微笑む。


いますぐ抱きしめたい。でもまた逃げられてしまったら。
この笑顔のまま、腕の中に閉じ込めて置くことができればいいのに。


(バーナビー君には、絶対に渡さない)




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