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▼ 17 叶えるわけにはいかない恋だけど

なんてコアな展示企画だ、とリツは思わずにはいられなかった。

輸入モノのジダイゲキフィルムの劇中使用衣装及び小道具展示なんて、イワンの趣味ど真ん中である。

「おお! ゴインキョのあの服でござる!」
「やー懐かしい! 印籠だっ」
「このモンドコロが目に入らぬかというやつでござるな!?」

なんだかんだリツも懐かしさで楽しんでおり、ブースの中では二人ともはしゃいでいた。

「ああっ こ、これがクノイチの服!」
「ねぇ見てイワン、山吹色の菓子のお菓子セットだってよ」
「葵の御紋のステッカーも売ってるでござる」

ふと、二人の視線が同じところで止まった。

「「貸し衣装で記念撮影できます……?」」

やるしかない。
何も言わずとも二人の心が通じた瞬間だった。











(楽しかった……)

お揃いで二人とも葵の御紋のステッカーを買い、早速イワンは携帯電話に貼っていた。

リツは若干自分の衣装に納得がいかなかったものの、イワンに望まれたのだから悪い気はしなかった。
持ってきたデジカメで撮影してもらい、サービスのポラロイドも二人分貰った。

旅篭屋の入口風の書き割りや、水茶屋のセットなどあり、どれもなかなかの完成度だった。

(私がご隠居か)
借りた衣装はリツがご隠居姿、イワンが風車を持った忍役である。

(そのうちイワンに守られる日が来たりして、ね)

イワンの身体能力とセンスの良さで彼の成績はメキメキと伸びている。
基礎的なものから対人格闘まで、初めはおどおどとして掴みかかることも出来なかったイワンも、リツ相手ならかなり良いところまでリツを追い詰めるようになった。

未経験者が経験者相手にたった1ヶ月半で、である。

イワンならヒーローになれる。
たとえ目立つ能力でなくともイワンならきっといいヒーローになれる。
過去には能力ありきで身体能力方面に期待されないヒーローもいたのだからその逆がいても良いとリツは思う。
自身の父の顔がよぎったが、どうせこれから見ることになるのだからと打ち消した。

「ねぇ、ヒーローグッズも見ていこうよ! スカイハイのもあるんじゃない?」
「うん、行くっ」

ヒーローやニホン文化(特にニンジャ)の事になるとイワンは途端に明るくなる。
いつもは声も小さいのに今はガヤガヤとうるさいこの人ごみの中でもはっきりと声が聞き取れるくらいには元気だ。

一度は離した手をまたイワンの腕に伸ばす。

「手つなぐ?」
「!」
(え?)

イワンからのまさかの申し出に思わず手を引っ込めた。
(今イワン何て!?)
「あ、その、ごめん、変な意味じゃなくてっ」

イワンも自分の言った言葉に慌てだした。
「リツがずっと掴んでるのは大変かなって、その、僕が握ってれば……あの、ほんとにそれ以外の意味はなくてっ」

真っ赤になってアワアワと言い訳をするイワンにリツは小さく笑った。

「うん、お願い」
する、と手を腕からすべらせ手を繋ぐ。

「!」

いっそうイワンの顔が赤くなった。
自分の顔も赤くなってるかもしれないな、とリツは脈拍の早くなった心臓を意識しないよう深呼吸をした。

「さ、行こ。」

恋人つなぎではないけれど、確かなぬくもりに頬が緩み心臓が高鳴るのは、リツが自分の気持ちを自覚するのには充分な判断材料だった。

ヒーローを目指す人は恋愛対象外。

幼い頃からテレビの前でハラハラと祈りながら中継を見ていた母の姿を見て育ったリツは、ずっとそう思って生きてきた。

この恋を叶えようとするならばイワンの夢を、目標を応援できなくなってしまう。
イワンの努力を知っているリツは、是が非でもイワンにはヒーローになって欲しいと思っている。

全力で応援したいからこそ、仲の良い友人でいなくては。
気づいてしまった気持ちはそっと胸の中にしまっておくことにした。



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