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▼ 16 OBC感謝祭

「リツ! デートなのにズボンってどういうことよ!!」
「落ち着こうかハンナ。 別にデートじゃないから」

今日は前々からイワンと約束していたOBC感謝祭に行く。
着替えてさあ行くかとカバンを持ったところでハンナに引き止められた。

「付き合ってなくても男の子と出かけるのはデートよ。 可愛くしていった方がカレリン君だって嬉しいはずよ」
「ええ? いいよそんな服持ってないし」
「待ちなさい。 そうね、リツならこれとか似合うわ。あとこれとこれと……」

ハンナは自分のクロゼットから何着か洋服を取り出した。

「あ、あの、ハンナさん……?」
「着替えるまで部屋から出さないわよリツ」

じりじり後退るリツを追い詰めるハンナの目は爛々と輝いていた。













「ごめん、待たせちゃったね」
「!」

ハンナから開放されやっとのことで待ち合わせの寮の食堂にたどり着けば、すでにイワンが待っていた。

「さ、行こっか」
「う、うんっ」
(リツのスカート初めて見た……)

膝上のスカートから伸びる足。
いつもはジャージか私服のジーンズなのでなんとなく見てはいけないような、そんな気がしてイワンは目をそらした。

「……」
(やっぱ似合ってないよなぁ……)
リツは気恥ずかしさとため息を飲み込んだ。 けれどもバスとモノレールの時間もあるので戻って着替える余裕はない。

もしまたこういう機会があったら今度はハンナに悟られないように気をつけようとリツは心に決めたのだった。












「すごい人混みだあ……」
モノレールも混んでいたが、会場のセントラルパークと設営されたステージ前はもっと大勢の人で賑わっていた。

あちらこちらにフードやグッズのスタンドがあり、ヒーローグッズの販売も行われていた。

「ねえ、ヒーローグッズ見てく?」

スタンドを指さし振り返ると、そこにイワンの姿はなかった。

「…………」

リツは電話をかけようとカバンの中を探った。

「…………あれ?」
ない。
カバンに入れたはずの携帯電話がない。

「……」

周りを見渡すも人ばかり。

「あちゃー……」
これはやってしまったな、とリツは天を仰いだ













「あれ? リツ?」

目の前で子供が転び、手に持っていたキャラクターのボールを落とした。
転がるそれを追いかけ、拾ってハイ、と渡し周りを見渡せばリツの姿を見失ってしまったことに気づく。
ポケットから携帯電話を取り出しメールを打つ。
なんとなく電話をする勇気はなかった。

「い、ま、どこ、って僕のせいだよね……」

はぁ、とため息をつき送信。携帯を開いたまま返信を待つ。
邪魔にならないところにいよう、とイワンはセントラルパークの端の方でリツからの返事を待つ。
三十分ほど待ったところで、一人の男が目に入った。

「…………?」

人を探すような動きをしている、周りの人間より頭一つ分抜き出ている背の高い男性。
容姿に見覚えはない。
知らない人物のはずなのに、イワンは妙に気になった。

(なんだろう……)

その男性もイワンに気づくと「あ」という顔をして慌ててどこかへ走り去って行った。

「?」

気にはなるが他人だしな、とイワンは未だ返信の無い携帯を確認しため息をついた。

「イワーン!!」
「!」

背の高い男性の消えた方向からリツが走ってきた。
すいません、すみませんと人を避けながらリツはイワンに駆け寄った。

がし、とイワンの肘をつかみ、イワンが開いたままにしているケータイを見てリツは肩で息をし、ひときわ大きく息を吐いた。

「ごめん! ケータイ忘れてきたみたい」
「あ……そうなんだ」
「この人混みだからもう会えないかと思ったよー」

この歳で迷子センターお呼び出しは笑えない。
「ごめんリツ、小さい子が落としたボール拾ってたらはぐれちゃって……」
「私こそごめん、携帯忘れてきたし……またバラバラにならないようにこうしててもいい?」

いい? とリツはイワンの腕を掴む手に、きゅ、と力を込めた。
「う、うん」
「ありがと!」
(流石に手を繋ぐのは……まずいよねぇ……)

リツはイワンの手をちらりと見て苦笑した。
イワンとは仲の良い友達でいたい。
警戒されたくはなかったので、手をつなぐでも腕を絡めるでもなく『つかむ』にとどめた。

「さー、どこ見て回ろっか」
スカイハイの出演までまだもう少し時間がある。
パンフレットを開いてイワンに見せれば、目を輝かせて一つのエリアを指さした。




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