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▼ 14 次の約束と嫌な思い出

寮の食堂のカウンターで朝食を受け取り、リツは先に食べていたイワンの隣にトレイを置いた。

「おはよ、イワン。 目はもうなんともない?」
「お、おはよう……大丈夫」
次の日、深夜に戻ったふたりは流石に早起き出来ずトレーニングは見送った。

「よかった」
にこ、とリツは笑う。

今日の朝食は、温められたシンプルな丸いパンにスクランブルエッグ、ベーコンとボイルされたブロッコリーに牛乳。
多分この組み合わせは十回以上見た気がするな、とリツは白いご飯が恋しくなった。

メニュー豊富な校舎のカフェテリアと違い寮の食堂は毎食一種類しかなく選ぶ余地はない。

「イワン、牛乳あげる」
「……身長伸びないよ」
「そうだね。それが目的だよ。そろそろストップして欲しいなぁ……」
贅沢な悩みだな、とイワンは横目でリツを見た。
現在二人の身長は160ちょっと。同じくらいだ。

「うち、家族みんなデカイからなんか……ちょっと……」
「じゃあもらうね」
「よろしく」

パックの牛乳をイワンの方へと置く。

「ねえ、週末にさ、スカイハイが出るイベントがあるんだって。 一緒に行こうよ」
「?」
イワンは口の中のパンを飲み下し首をかしげた。

「そんな告知あったっけ?」
「ふっふっふ……実はね、パパから聞いたんだ。
友達がスカイハイのファンクラブに入ったって話したらね、教えてくれた」

リツは携帯を開きカチカチと操作する。
表示されたウェブページをイワンに見せた。

「……OBC感謝祭?」
「そう。 事件がない限りスカイハイがシークレットゲストでステージに出るんだって」
リツの父は今はコメンテーターだが、OBC感謝祭ではステージで司会をするらしい。

「パパイベントの関係者だからさ。スカイハイが好きなお友達とおいでーって。
あ、ほかの人にはナイショね」

リツ父の思惑としては自分がステージに立つ恰好いい姿を娘に見てもらいたいと云うだけで、
そして娘の云う友達がまさか異性だとは思っていないのだった。

「行くっ」
イワンは目を輝かせて返事をした。
「じゃあ日曜あけといてね。 エドワードも誘う?」
「あ……エドワードは……彼女出来たらしいから多分無理だと思う」

あっち、とイワンは食堂の端を小さく指さした。
そこにはエドワードと女の子が仲良くおしゃべりしながら朝食をとっていた。

「なるほど。 ハンナもどうせデートだしなぁ……」

はぁ、と二人のため息が重なった。











夜、あとは寝るだけとベッドでごろごろしているとハンナが神妙な声でねぇ、と声をかけた。

「ねぇリツ、ベネディクトって知ってる?」
「エッグベネディクトなら好きー」
「違うわよ、人名。 隣のクラスの男子」

リツは間髪入れずに知らない、と答えた。

「なんかね、リツに彼氏はいるのかって聞かれたのよ」
「あーいるいる。 売店の果肉入りクリームメロンパンが私の恋人」
「もう!」

「あー……コンチネンタルエリアのパティスリー・エクレウスの焼き菓子も彼氏にしたい」

「あーのーねー……ほかにもリツの好きな人はーとか仲いい人はいるのかーとか、食べ物の好みとか……なんか根掘り葉掘り聞いてきてさぁ」
「それはよろしくないですな」
「でしょう!? 今日も食堂でリツのことずっと見てたのよ! あーもう気持ち悪いっ」
「うん? 食堂……?」

食堂。
今朝はイワンと、夜はハンナと食べた。

(まさかヒーローアカデミーでも同じ事にならないよなぁ……)

ずき、と胸が痛んだ。
ヒーローアカデミー入学前に起こった事件が未だにリツの心を苛む。

(気をつけよっと)

ここは正義のヒーローを目指す学校だ。
そんな事件を起こすような人物がいるようなところではないはずだ。
しかし、ヒーローアカデミーにはリツやハンナのようにヒーローを目指していないネクストも存在する。

「リツ気をつけてね」
「うん、ハンナも気をつけて。 どこにでもバカっているしね」

『もう俺に関わらないで』
『ごめんねリツ、リツが悪いわけじゃないんだけどさ』
『リツちゃんと遊ぶと目つけられるからもう遊ばないっ』

「……やだなぁ」

過去のことだと、割り切ったつもりの記憶が次から次へと溢れてきて、そっとリツは布団を顔まで引き上げた。

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